怪我をした鳩


最近,「怪我をした鳩」をめぐって私と倉敷市の藤田(仮名)さんという女性との間で以下のやり取りがありました。心温まるお話でした。藤田さんからご承諾がいただけましたので掲載いたします。
                             (2003/7/11)


第1伸(2003/6/27)

 突然のメールで失礼いたします。

 私は、岡山県に住む者です。今週の火曜日に犬の散歩の途中で道路上に倒れている鳩(山鳩?)を見つけました。見ると体のあちこちから出血しており、飛ぶことができない状態でした。すぐに近所の獣医に連れて行き診察してもらったところ、猫にでも噛まれたのではないかということでした。傷はあまり深いものではないので、エサを食べるようなら元気になる可能性があると言われ連れて帰ったのですが、とにかく鳩を飼った経験がないので、どう対応したらよいのかわからず、少々困っています。
 さらに、エサ(ペットショップで購入しました)は食べているようなのですが、両足とも動かない状態で、羽を動かしながら床を這っています。獣医さんは、骨折はしていないとおっしゃったのですが・・・。

 我が家には犬が4匹いるので、鳩は離れの部屋に隔離していますが、犬が気配を察知して部屋に入ろうとするので大変です。
 池田動物園に保護してもらったらどうかと言われたのですが、もう少し元気になるまでコミュニケーションをとりながら保護したいと思っています。ですが、素人の私がいつまでも保護していることは、鳩にとっては不幸なことでしょうか?

 現在、傷のところは羽が抜けてしまい、背中あたりは完全にハゲています。また、足が立たない状態です。この状態で私が飼い続けるとしたら、今後どのようにケアしてあげたらよいのでしょうか?
 
 突然で申し訳ありませんが、何かアドバイスをいただけたら幸いです。
                                                    岡山県倉敷市  藤田



第1伸への返信(2003/6/30)
岡山県倉敷市  藤田:
 大変な問題を抱え込まれたようで,心から動物に対する優しいお心に感謝いたしたいと思いますし,ご苦労様と申し上げたいと思います。
 現実的には大変厳しいものと考えます。

 鳩の種類は,恐らく山鳩ではなく人間に飼われたことのある鳩と推定いたします。野生の鳩は到底人には慣れず,餌も食べずに衰弱いたします。

 獣医さんは、骨折はしていないとおっしゃったとのですが,両足とも動かない状態で、羽で床を這っている現状は本来飛ぶ鳥であれば致命的欠陥になり得ます。飛行機で言えば胴体着陸せざるを得ない状態ですので足が回復しないことは大変な状況です。外にでている部分では骨折が無くとも内部で何らかの重大な障害が起きている可能性はあります。

 何処の施設に連れて行っても根本的な治療法はとらないと思います。
 従って藤田様がこのままお飼いになる方が実は鳩にとっては幸せなことだと思います。

 ただし,ここ1-2週間で下肢機能が戻らないとすれば厳しい判断をせざるを得なくなり得ます。私のホームページ徒然日記の2003/1/23頃のキリンの「たいよう」の記事をご参照下さい。 

 餌と動き回る空間,外敵からの保護さえ十分であれば,ケアの問題ではなく,鳩自身の問題だと割り切りたいと思います。
 多忙で十分コメント出来ませんでした。少なくとも歩行できる状態になって欲しい,と私も思います。

                             秋田市 福田光之



第2伸(2003/7/9)
  秋田市 福田光之様
 6月末に、保護した鳩のことでご相談した倉敷の藤田です。その節はいろいろとありがとうございました。

 鳩は先週から室内(離れの書斎)を飛べるまでに回復し、エサもよく食べて元気にしておりましたが、少々自由にさせすぎたのか、室内を飛び回っているうちに家具の隙間に落ちて羽を傷つけてしまいました。
 2週間以上たっても足が立たなかったため、飛ぶことはできても胴体着陸している状態でしたので、障害物の多い室内では安全を確保してあげることができませんでした。
 羽の傷を消毒して、すぐにバスケットの中に入れましたが、これから先のことを考えるとどうしたらよいものかと思い悩み、池田動物園に連絡してみました。池田動物園から「連れて来てください」と言われましたので、実は今日、鳩を連れて行きました。

 動物園では、回復すれば野生に返すが、獣医が診察して足に障害があれば、安楽死させることになると説明されました。

 結果的に私は、鳩を見殺しにしてしまいました。中途半端なことをするくらいなら、保護しない方がよかったのでしょうね。本当に可哀想なことをしてしまいました。先生には応援していただいておりましたのに、このような結果になり、本当に申し訳なく思っております。

 診察の結果がどうだったのか、電話で問い合わせてよいと言われましたが、怖くて電話することができません。奇跡を信じてただ祈るだけです。

 本当にいろいろとありがとうございました。
                           岡山県倉敷市  藤田


第2伸への返事(2003/7/10)
岡山県倉敷市  藤田様
 私も気にしておりました。ご報告有り難うございました。
 私の鳩も事故その他で何羽かは足に故障を持ったのがおりました。当時は私も子供でしたので安楽死などは考えませんでしたが、結局は生存できず一部は病死、一部は外敵にやられたように記憶しています。

 自然界の動物は自活出来なければ死が待っていることを子供の頃から突きつけられ、学ばされました。これは私の医療観にもなっています。人間と動物園の動物だけは別扱いですが、はたして幸せなことか??と思います。

 貴方が鳩を保護されたことは実に素晴らしいことだったと思います。ただ、2週間以上たっても足が立たなかったと言う事実、そのことが本日以降の鳩の今後の運命を決めるのだと思います。恐らく、残された道は安楽死だと思いますが、本日までの2週間は、鳩にとっても、貴方にとっても、なかったよりあって良かった時間だったのではないでしょうか。私にとっても、です。

 いろいろ有り難うございました。とても心温まりました。

                            秋田市 福田光之




 
第3伸(2003/7/10)

 秋田市 福田光之様
 メールありがとうございました。
 この2週間は、私にとっても鳩にとってもなかったよりあってよかったのではないか・・・という先生の一言に、そう思いたいと強く思いました。ありがとうございました。お会いしたこともない方からこんなに優しい言葉をかけていただけるなんて、思ってもみませんでした。

 今回のやりとりをホームページに掲載したい,とのことですが、私の方はかまいませんので、どうぞ先生のお考えの通りになさって下さい。
 実は、「鳩」「鳩の飼い方」で検索して先生のホームページに出逢いました。鳩に関する記述の部分しか読んでおりませんでしたので、これからゆっくり読ませていただきます。
 ありがとうございました。 
 
 追伸 メールの送信時間が午前4時になっていましたが、早朝からお仕事をされているのでしょうか(もしかしたら、早朝まで でしょうか?)。本当にご苦労様です。頭が下がります。    
                           岡山県倉敷市  藤田

後日談


福田先生
 
 鳩でお世話になった岡山の
藤田です。
 実は、その後の様子について、池田動物園にメールで問い合わせてみました。診察の結果、やはり足には骨折の所見はなく、神経障害ではないかということで、現在機能回復のための処置をして下さっているということでした。足が使えないこと以外は問題なく、大変元気だそうです。
 安楽死されているものと思って、結果を聞くのが恐ろしかったのですが、メールを見たときには嬉しくて主人と一緒に思わず手をたたいてしまいました。
 これから3週間がひとつの目安だそうですので、機能の回復を祈っていたいと思います。
 8月は約1ヶ月東京の家で過ごす予定ですが、移動する前に一度、池田動物園に行って鳩の様子をみて来ようと思っております。
 先生との出逢いがもしかしたら奇跡を呼んだのかもしれません。
 福田先生! ありがとうございました。

藤田様
  おはよう御座います。
 ご報告どうも有り難うございました、本当に良かったと私も胸をなで下ろしました。

 ただ、下肢機能が両方とも障害を受けていると言うことから脊椎あたりの外傷と推
定されますが、骨折より良かったのかについての判断は慎重であらねばなりません。
骨は再生出来ますが、神経は困難な場合が多いのです。

 でも、素直に元気でいることを喜び、ここ数週間、奇跡が生じるよう、信じて待つ
ことにいたしましょう。


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