講演集 〜ラジオ・テレビ番組から〜

高齢化で見直されてきた在宅医療


 
A: 日本は間もなく世界で最も高齢者の比率が高い国になるとされています.高齢化という話題の中では医療や福祉がどうなるのかが心配なのですが.

 F: わが国の高齢化というのは何処の国も経験したことがない速さで進行して,間もなく世界一になります.なかでも、秋田は日本一の高齢県になるだろう,とされています.
 それに伴い,医療や福祉の内容がどんどんと変わっていく訳なんですが,その中で高齢者の医療の場として在宅医療が見直されてきています。


 
A: 在宅での医療を推進する方向は患者さんの大病院志向や家族構成が変わってきている今の時代の流れに逆行するようなイメージがあるのですが。

 F: 高齢の方々の大多数は,日常は診療所や病院に通院されている訳ですが,病気になったり身体が弱ったりして通院できなくなった場合には出来れば病院や施設などでなく,住み慣れた家で過ごしたい,と希望されます.
 お年寄りにとっては、長く住み慣れた自分の家が唯一のやすらぎの場なんですね.病院や施設にはいろいろ制約があって私も入院患者さんをお気の毒と思います。


 A: しかし,高齢者ほどいろいろなの病気を持っていると思いますし、病気もより重症になりやすいのではないでしょうか。


 F: 高齢者と言っても大多数の方々は腰も曲がらずに若々しく矍鑠としておられます。病院通いされている方でも重大な病気を持っておられる方はそれ程多くはなくて,症状の固定した慢性の病気が主たるものです。
 やがて、体力も落ちて通院も難しくなってくる訳ですが、ころからは,疾患の治療よりは生活の質を維持するための介護の意義が急に大きくなります。
 勿論,肺炎、脳卒中などの急性で,重大な病気になった場合には,病院で十分に治療する必要があますが,介護が主になった様な患者さんの治療の場としては病院は決して相応しい所とは言えません.
 病気の状態や、家族構成など、条件さえ許せば,住み慣れた自宅で、例えば晩酌を楽しむなど,自分のペースで生活しながら相応しい介護と治療を受けるのがよい,と云えます。


 
A: この在宅医療重視の方向性は一般の方には余り浸透していないように思いますが。


 F: 在宅医療と云えば一部の裕福な人しか病院にかかれなかった時代の暗いイメージがあるのですね.
 高齢者をかかえている家族は、共稼ぎとかでとても世話できないから、弱ったら病院に入院させたい,病院に連れていけば何とかなるだろう,と考えておられる方々が多いのです。最近弱ってきたのでお願いしたい、と言って親を連れて入院を希望して病院にこられるお子さん方が後を絶ちません。
 ところが,実際にはなかなか病院に入院できない,厳しい状況がさし迫ってきているのです.なぜならば,秋田市の場合を例にとって説明しますと西暦2000年までに病弱で介護を必要とする老人が数千人ほど増えるとされていますが,病院のベットは全く増えないのです.


 
A: 高齢化で患者さんが増えるのに病院のベットが全く増えないと云うことはどうしてなのですか.


 F: 各地域ごとに適正ベット数が決められています。秋田県の場合、適正数をほぼ満たしているとされていますから病院を大きくしたり,新しく造ることが出来ないのです.だから,何度の強調していますように病院は本来の機能が発揮できるように整備していかなければなりませんし,だから.診療所の存在意義は今後ますます大きくなっていくのです.


 
A; 在宅医療の意義は解りましたが,問題は円滑にやっていけるような医療や福祉体制がどの様に整備されていくのか,だと思いますがどうなんでしょうか

 F: 在宅医療が円滑になされるためには本人・家族が在宅医療を納得していることが第一で、健康な介護者がいることも条件となります。現状では高齢者福祉対策もまだまだ不十分ですので在宅医療というと介護する家族に負担がかかって大変なのですが、本来は家族の犠牲の上になり立つ在宅医療ではダメなんですね.将来的には医療,福祉の充実で、家族の負担を大幅に減らすことが絶対的に必要です。そのために厚生省では新ゴールドプランとして訪問看護ステーションを5000ヶ所に、ホームヘルパーを20万人に増やそうなどと計画しているのです。


 A: 医師会の方では在宅医療について何か準備されていることがありますか

 F; 在宅医療には介護が重要ですが,医師の往診とか訪問診療が欠かせません.大きな病院では往診とかは出来ませんので地域の診療所の先生方にお願いすることになると思います.ですから、より元気なときから地域の診療所の先生と馴染みになっていることは大切ななことなのです。
 秋田市医師会では診療所と病院の連携を高めて在宅老人医療ネットワークシステムを作りましたし,医師会立の訪問看護ステーションも秋には発足させて在宅医療を支援しようとしています.
 高齢化社会を迎えるにあたって行政の対応も、医師会の対応もまだまだ不十分です.互いに協力しながら充実させていく必要があります.
 時間の関係であまり詳しくは述べられませんでしたが,私が今日申し上げたたかったのは,県民の皆様方にも医療・福祉に関する発想の転換が求められていることを知って頂きたいこと、高齢化に伴う諸問題を自分の身近な問題として,より若い方々にも関心を持って頂きたいと云うことです.


ご意見・ご感想をお待ちしています

これからの医療の在り方Send Mail