吉本ミチ先生は、開業医として60年以上の 経験をお持ちの現役の 眼科医。女性が医者になることは稀だった時代から、地域のかかりつけ医としての役割も果たされてきました。 家庭と診察室とを走り回ってこられた先生の、医師としての、また女性としての生き方などをうかがいました。
80歳を越えられて医者としてなお現役。これまでお身体は丈夫だったのでしょうか。
子どもの頃から非常に健康でした。結婚して子どもを産んでも家庭と診察室とを走り 回っておりました。23年前に大腸がんを患いましたが、ごく初期の段階での発見でしたので治療も早く、元気に過ごしております。運動は特にしておりませんが太らないように腹八分で 我慢し、食事には気をつけております。幸いなことに、 若い頃から ずっと仕事 で立っていたからか、足腰が 痛いということはありませ ん。これは恵まれていること ですね。 今は次男が帰ってきました ので、やっと一息ついた感じ です。患者さんとお話したり するのもボケ防止になってい るのかもしれませんね。楽し く過ごしております。
当時は女牲が医師になることは稀でしたし、いろいろなご苦労をなさったでしょう。
学生の5年間は寄宿 舎生活で、いろいろな人と接することや、人間の和を学びました。結婚をし、3人の子どもにはとにかく、一生懸命に手をかけました。泣いても笑っても、 いつも子どもと一緒で した。 孫には「おばあちゃんはいつも走り回っていた」と言われます。そんな 生活も主人の理解と協力があってこそ。主人は子煩悩で、 勉強もよく教えてやってくれ ました。
最近、医師を目指す女性が増 えました。今や国家試験合格者の4分の1が女性です。秋田大学医学部の学生も3分の1が女牲とのこと。
女性が 医師にな るのは素晴らしいことです。 ただ、保育所などの施設が増えない限 り、女医さんは安心して一生 懸命に勉強することができないと思います。それは看護婦さんも同じです。環境の整備が何よりも大切だと思います。
医学の講演会などがありますと、いつも一番前の席で熟心にお聴きになられている姿を拝見します。医師としての信条をお聞かせください。
私が医学を学んだのは60年 も昔のこと。一生懸命治療してきましたが、それが時代に 遅れない正しい治療なのかどうか、自分のためにも患者さんのためにも確認する意味で勉強してきました。
少予化、高齢化について否定 的に取り上げられることがあります。しかし、文化が発展し医療技術も高度になると自然に高齢化は進みます。ご高齢の立場からどのようにお感 じになられますか。
少子化といわれますが、安心して子どもを育てることが できる環境があれば産むはず です。また、高齢者と呼ばれ ても元気にしておられる方は 大勢いらっしゃるので、不愉快に感じることがありますね。 昔の年齢よりも、今の年齢はかなり若いようです。定年を考えるよりも、年齢を重ねても社会参加していくことの方がずっと幸せなことだと思います。
先生の生き方は、秋田県の 方々のひとつの目標になるものだと感じております。最後に、秋田県民にメッセージをお願いします。
どんな病気でも必ずなにかしらのシグナルはあるもの。 少しでも異常を感じた時はか かりつけの医師に相談するよ う心がけてください。早期発見、早期治療が最も大切。そ して、社会参加にも目を向け ていただきたいものです。 ◆
吉本ミチ
【プロフィール】
東京女子医大専門学校卒業後、北海道大学医学部眼科入局。
昭和14年、秋田市で眼科を開く。現在吉本眼科医院(秋田市土崎港)理事長
大正三年生まれ。六郷町出身
秋田県医師会情報誌「すこやかさん in AKITA」 Vol.3 発行日2000年3月26日
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