病院の患者フォローと予約制についての質問と回答
(秋田県医師会の)HPを拝見いたしましてmailいたしました。
医療機関の利用者の一人として、貴会に医療サービスに関する質問をさせて頂きます。
唐突な質問並びにお忙しいところ大変恐縮ではございますが、ご回答のほどよろしくお願い申し上げます。
1.退院あるいは通院終了後の患者フォローに関して。
私は長年東京に住んでおりました。2年前札幌に移住いたしました。
私は幸いにも大病を患った事もなく、入院経験はございませんが通院経験は
ございます。
また入院に関しましては、家族を含む周りの者に経験がございます。
その中で、東京でも札幌でもそうですが、退院後あるいは通院終了後病状に
もよるのでしょうが、病院から何の連絡もございません。ただ一部の病院で
すが、DMが1回届いたのを記憶しております。
歯科の場合は、ほとんどが予約制のため、患者の都合で通院を中断した場合
電話で来院する旨催促がございますが、これは別の目的も含まれていると思
われます。
前置きが長くなりましたが、退院後あるいは通院終了後、医療機関としてそ
の後の経過などを調査・フォローするために、患者に連絡するなどのサービ
スは行っていないのでしょうか?
また、もし実施している医療機関がございましたらご紹介いただきたいので
すが。
2.歯科の様に予約制を導入しない理由。
貴会に所属する医療機関とは別な事例ですが、これは、札幌に移住しまして
特に感じた事です。昨年の正月の事です。インフルエンザにかかりまして高
熱が出ました。新聞から近くの休日診療当番医院を探し病院へ出向いたので
すが、そこで驚いたのは待合室には座る場所も無いほど込み合っていたこと
です。(病院自体は中規模の複数診療科目がある病院です)しばらく壁にも
たれ席が空くのを待ち、なんとか空いた席に座って呼ばれるのを待ちました。
問題は、待たされた時間です。
インフルエンザが流行っていた関係もあったのでしょうが、約3時間待たさ
れました。ここまでひどくなくても、腹痛でやはり日曜日に休日診療に行っ
たのですが、1時間程度は待たされました。
待合室で周りの人に聞けば、やはりそれくらい待たされているとの事です。
そこで何故、医療機関は予約制を導入されないのかが疑問です?
これに関しましても、もし予約制を導入されている医療機関がございました
らご紹介ください。
ご質問申し上げたい点は以上2点です。
私は情報産業分野で仕事をしている関係で思うのですが、今のシステムを持って
すれば、医療機関や患者にパソコンが無くても、上記2点のサービス提供は可能
なはずです。極端な話し、ゲーム機や携帯電話でも可能です。
では何故実施されないのか? そこには医療というある意味において特殊な世界
で、利用者と医療機関をある意味においてオープンなインターネットという世界
でつなぐ場合、馴染めないのではないかという疑問もございます。
この点に関しましてもご意見を頂ければ幸いです。
また、この様な事に関する論文などございましたら是非ご紹介ください。
大変長くなりましたが、ご回答のほどよろしくお願い申し上げます。
最後に、貴会の今後のご発展・ご活動、心よりお祈り申し上げます。
医療サービスに関する質問に対し回答させて頂きます。
ただし、公的見解としてではなく、病院勤務医師の立場からの私的見解
ととらえていただきたいと思います.
1.退院あるいは通院終了後の患者フォローに関して。
医療は患者さん方が求めている、受診の意志がある、その意志を申し出
た、来院される、・・・ことを機会に開始されるものす.受診するか否かの意
思の決定、医療機関の選択、医師の選択、等が自由です.患者さんにとって医
療機関にほぼ自由にアクセス出来ることは我が国の医療の大きな特徴であ
り、患者さん方にメリットは大きいものと考えます.
ただし、そのために重複した受診、頻回の受診、等を始めとする、非能
率・非効率な医療も展開されている現実もあります.その点は医療関係者から
患者さん方に十分説明し、理解していただかなければならない点です.
従って、医療機関側では患者さんに継続的受診をすすめ、治療効果を上
げるために適切な説明をすること迄は出来ます.診療の一環としてどこの医療
機関でも行っております.しかし、あくまでも患者さん方に対して、受診その
ほかについて何ら拘束力を持つものではありません.
受診を約した患者さんが予定の日々に来院しなかった場合には、医療機
関側からは、おそらく他の医療機関に移られたのか、あるいは症状が改善した
ために来院しなかったのか・・と解釈するのが一般的でしょう.転院の際など
では、本来であれば紹介状など請求した上で転院されれば理想なのですが、
そのように行動する患者さんはほんの一部で連絡もなく転院されます.
ただし、検査などにて思いがけなく重大な結果が出たにもかかわらず、
来院しなかった場合には、連絡を取り説明の機会を作ることは行われていま
す.
また、慢性疾患等で長く経過観察していたような患者さんが、何ら連絡
なく受診されなくなった場合には、受診を促す葉書とかを出している病院もあ
ります.患者さん方には必ずしも歓迎されていません.
まとめますと、ご質問にありますように、退院後あるいは通院終了後、
医療機関としてその後の経過などを調査・フォローするために、患者への連絡は
a)医療という意味では、患者さんの自発的受診意思を尊重し、受診勧奨等
は一般的には行っていないと考えていただきたい.
b)積極的に、患者さんへ連絡を実施している医療機関は、私の知る範囲で
はありません.
c)ある治療法の成果を検証するために、学問的な意味で患者さんの予後調
査などは行われています.
d)医療機関では来院される患者さんへの対応でも精一杯で、退院後の患者
さんや、来院されない患者さんにまで配慮する余裕はありません.従って患者
さんは自分で自分の健康を管理し、自発的に必要な受診をなさってください.
2.歯科の様に予約制を導入しない理由。
中規模以上の病院では、病状や症状が安定した患者さんが通院する診療
部門については予約制がかなり普及しております.例えば、糖尿病外来、高血
圧外来、漢方外来・・・と名称がついているのは大抵予約制をとっていると考
えてもいいほどです.これは、来院する患者さん方に長い通院歴があり、病状
が十分理解されていること、病状がある程度狭い範囲に限定され、かつ、慢性
疾患で病状の変化も緩やかだからこそできることです.
自分の体験として記載されておりましたのはインフルエンザの受診の時
のことですが、新患、あるいは急性疾患を扱う診療に関して、システムとして
予約をしている病院は数は少ないと思いますし実行は困難です.
理由としては、急性期あるいは新患患者さんは本人が軽い症状と申告し
た状況であっても、実は生命に直結する重病であることもあり、また逆もあり
ます.従って新患の場合一人の患者さんに要する診察時間は5乃至30分と大き
な差があり、時には1時間を要することすらあります.従って、限定された疾
患範囲と、病状、応急処置可能な歯科とかとは一線を画してお考えくださ
い.
患者さん方に対して十分責任を負える状態で新患の予約を取るとすれ
ば、午前外来で数人乃至10数人しか診療できません.その結果、高熱とか急病で
あっても診療の予約を取ると「4日後の11時頃来院ください」と答えざるを得な
くなるでしょう.イギリスの現状はこれに近いとされています.
患者さんにとっても医療者側にとっても実に大変な現状ですが、待って
いただければその日のうちには診察が可能だと言うことはご理解いただかなけ
ればなりません.
それでも予約を取り、医療スタッフを総動員して診療に当たれば解決す
るとお思いかもしれませんが、病院にとっては外来以外の種々の業務がありま
す.そのなかでも外来には最大限の時間とマンパワーを割いているとお考えく
ださい.予約制導入しますと患者さんにとっては都合のよいことは理解できま
すが、予約制をスムースに運営するには予約外に来院なさる患者さんにも対
応する必要が生じますので今以上のスタッフが必要になります.現在の様に診
療報酬が低い状況では医療機関にとってはこれ以上のスタッフの増加は経営上
無理です.
上記のごとくに慢性期疾患については各地で予約制がなされてい
るはずです.札幌在住の方に秋田の事情をご紹介しても意味があると思え
ませんのでこの点は割愛させていただきます.
(常任理事 福田光之)
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