講演集 〜これからを豊かに生きるために〜


SARSが教えてくれたもの



Q:東南アジアを中心に猛威を振るったSARSの感染者が減少してきたために、WHOはこのほど、制圧宣言を出しました。世界を揺るがせた恐ろしい感染症が山を超えたという報道に世界中が安心したと思われますが。



私たち医療関係者は実際に3月末から今日まで随分緊張が強いられていましたが,ほっと一段落した気がいたします。でも決して安心しているわけではなく,今後も対策は続ける必要があります。

表一は,4月中旬以降のSARSの発生状況をグラフにしてみたものです。患者さんは4月末からの1ヶ月間で急増していますが,5月末からは増加速度が鈍りはじめ,6月以降は殆ど新しい患者は発症していません。こういう変化を背景にWHOはこのほど、制圧宣言を出したと言うことです。







Q:東南アジアを中心に蔓延したとされていますが,世界的な分布状況はどんな風でしょうか。

中国で最初の患者が発症したと思われますが,患者さんはヨーロッパ,アメリカ,カナダなど32ヵ国に渡って発症しています。これは高速の航空機で大勢の方が移動する時代がもたらしている現象です。

とは言っても患者の割合を見てみますと,この図一にあるように中国,香港,台湾ので80%ほどを占めています。亡くなった方の割合は台湾が若干多いようです。



Q:中国でこんなに増えたのはどうしてでしょうか??

情報公開に問題があって初期の感染予防対応が十分でなく,瞬く間に広がってしまったと言うことです。一方,4月下旬からは国を挙げての強力な封じ込め体制を敷いて抑圧に成功したと言うことです。



Q:日本では一人も発症しなかった訳ですね?

日本では幸運なことに一人も発症しませんでした。台湾の医師がSARS発症直前に日本を旅行したことが一番問題でした。ですけれども幸い誰にも感染させませんでした。

もしかして??,と言うケースは秋田の例も含めて全国で少数見られましたが,結果的には全例否定されています。



Q:SARSが私たちに何を教えてくれたのでしょうか

SARSは33番目の新しい感染症に相当します。人間社会の変化に応じてこれからもこの様な感染症は生じてくる可能性があると言うことが示されております。

今回の発症や蔓延に関連した因子としては動物と人との関係が変わりつつあること,人口密度の高い都市の感染症対策の問題,高速移動体系で瞬く間に全世界の問題になると言うことです。

SARS対策の基本は隔離でした。やはり感染症の多くの基本は隔離と言うことになります。その場合,法律も不備,設備も不備,マンパワーも不備と言うことがよく解りました。SARSの様な感染症が生じた際にはいつでも感染症治療病院となれるような医療機関,医療体制を用意しておくことにつきると思います。

台湾の医師の旅行の件から解ったことですが我が国の一般住民はパニックになりやすい傾向があります。情報公開が大事だと言うことです。



SARSへの今後の対応

行政と医療関係者が共同してSARSの様な感染症に対する医療体制作り上げていくことと,県民に正確でわかりやすい医療情報を提供することだと思います。



SARSに対して県民として今何をなすべきでしょうか

SARSウイルスが中国の動物が持っていると言うことは,完全に発症を抑制することが極めて困難なことを示しています。いつか再び発症してくるかもしれないことを前提にしておかなければなりません。

知識が冷静な行動に結びつきます。県民を,国民を守るためには冷静な行動が絶対に必要です。そのための勉強を常日頃からやっておいていただきたいと思います。

今年の冬のインフルエンザは出来るだけ少なくしておかなければなりません。まだ早いのですがインフルエンザの予防のためにワクチンを受ける心づもりが必要でしょう。

県医師会ではホームページを通じてSARSへの情報を提供しています。


ご意見・ご感想をお待ちしています

これからの医療の在り方Send Mail