秋田組合病院 消化器科科長 福田二代
昨今、女医は珍しい存在でなくなり,県内でも第一線の医療を大勢の女医が担っています。
従来、医学部入学者に占める女子の割合は5-10%程度とされていましたが、国立大学医学部の定員が増員された昭和40年前後から女子学生が増え始めた様です。私の場合、卒業生87人中13人が女子でした。今年は医師国家試験の合格者の約25%が女性であったと言います。
私が入学した当時、「女子大生亡国論」などが語られていましたし、「自分が病気になっても、女の医者なんかに診てもらいたいと思わないだろうね」などと言う先輩医師もいました。その時は女医はそんな風に考えられているものか、と内心がっかりし、その言葉は卒業まで私の頭から離れませんでした。しかし、第一線で医業に携わってみて、そのように考える方は決して多くなく、私の杞憂に過ぎないことが解りました。医師になりたての頃から今までの約30年間、私が女医であることで患者さんとの間で不快な思いを味わったことは一度もありません。これは勿論、先輩女医の方々の努力の成果です。もっとも、女医を嫌う患者さん方は初めから私を避けて受診しているのかもしれませんが。 私たちの親と同年代の医師は365日、24時間体制で、要請があればいつでも診療に応じ,生活を楽しむ時間もなかったようで,私たちと同年代の医師の集まりで「父親(女医の場合に母親)と一緒に夕食をとった記憶が殆どない」などという話題がよく出ます。その頃の女医は家事や育児をしたくても出来なかったようですが,当時はマンパワーが豊富だったので、それなりに誰かに任せながら何とか両立出来たようです。私の先輩のある女医さんは3人のお子さん,それぞれにお手伝いさんを付けて育てた、とのことで、今からみれば驚くばかりです。本人達の感想を聞いたことはありませんが, 3人とも立派に成長し、いずれも現在、医学部の教授や助教授として活躍されています。
男性の医師は仕事と家庭との板挟みで悩むことはないでしょうが、女子学生、女医の場合はそこから選択を強いられます。人として生を受け、成長して人を好きになり,共に一緒に居たいと思えば、今後も結婚と言う形態が自然な姿だと思います。夫に十分協力してもらうことは当然ですし、生活の条件をいろいろ工夫すれば、仕事と家庭の両立は何とか出来るはずです。 私の同級生の一人は、数年間子供を県外の両親に預けて研究や仕事を続けたとのことですが、私は、やはり母親としての立場は大切にして欲しいと思います。私の場合は、子育てと仕事の両立に悩んでいた時期にたまたま叔母が二人の子供を連れてわが家に転がり込んで来ました。一時は八人と大所帯でしたが,give and takeと割り切り家事と育児の大部分をお願いしました。夫は、暇無く何かをやっている人で、邪魔されるのを嫌うかわり、手もかかりません。子供達との対話は大事にしてくれました。 子ども達は母親がいなくても寂しがっているそぶりはありませんでしたが、私にとって寂しいことでした。子供達の学校の行事にははなるべく出るよう工面しました。日曜日の夕食は出来るだけ作りましたが、さんざん待たされ、どんなものが出来るか解らない、と概して評判は良くありませんでした。既に3人とも親元を離れ、本当に寂しくなりました。
今、優秀な女学生が全国から秋大医学部に入学しているといいます。夢を抱き、希望に燃えて医師への道を選んだからには、医師としても人としても自分で納得のいく人生を送って欲しいと思います。人間に対する優しさを失わないで患者さんに接するためには,自分の生活に余裕を持つことが必要です。 つたない私の経験から思いつくまま書いてみました。