医療は果たしてどれだけ役に立っているのか
医療が、あるいは私が医師として患者さんに何をしてあげているのか、私は殆ど無に近いと思っています。近代医療の技術を駆使して患者さんを最低限のレベルで生かすことは出来るが、基本的に元気に生かすことなんて出来ません。元気になるのは医師の力ではなく、結局はその患者さんの持っている予備能によって大概の結果が決まってしまうのです.むしろ近代医療の大きな罪として生老病死に対する、生物として謙虚で純粋な感覚を奪ってしまったことを嘆くことがあります。
特に高齢の方々の場合、高齢であることだけでも予備能が乏しく 厳しい状態である上に、それを背景にして重篤な疾患や病状に陥っていることが多いのです.従って、一命を取りとめたとしても、結果的には寝たきり状態や植物人間に近い状態になる頻度が高い。 私どもが担当している病棟の患者さん、60歳代より若い方は珍しい方で、高齢の方々の一部は自分で寝返りも出来ないばかりか,意志も伝えられず 自力で食事も取れず・・の状態.果たしてこの方々は元気なときによもや自分がこういった人生を過ごすなどとは思ってもいなかったのではないだろうかと考えながら、時には患者さんに話しかけてみるが、勿論返答はありません.
だから、私は高齢の方を担当することの多い内科医師として、医学や医療の立場からでなく、患者さん自身を中心にものを考えるわけです。今、EBM(確証に基づく医療)等という考え方が流行です。しかし、私の目からいえばこんなのは高齢者医療の現場では殆ど役に立たない。患者さんの満足が第一であって、検査成績の値など、無視はしませんが重視もしません。患者さん方がケロッとしているのに騒ぐのは医師のみ。「正常値でなければ異常だ」と思う医師が多いから、そう言う医師に担当された患者さんは大変でしょうね.
医療が、医師が患者さんを幸せにしているなんて、私には考えられません。そうなっている方々はみんな自分の力で幸せになっているのです.「先生のお陰で・・・」といわれるのが恥ずかしく、辛いです.
医療を受けたくてもうけれない環境にいる方々、これらの方々に対し医師個人として一体何が出来るのでしょうか.
(2002年9月11日)