研修医諸君へ(6)「気になる患者は指導医に実際に診てもらおう」
 救急外来、外来等で患者を診察し、初期対応した後でも気になる患者は少なくないはずである。いや、もしまったく気にならないとすれば、その方がおかしいのだと考えよう。 少しでも気になる患者は時間的余裕がありそうなら、カルテに診察依頼のコメントを書いて指導医格の医師の外来とかに結びつければいい。
 最終的判断に迷う場合、何だか解らないが気になってしょうがないとき、帰そうか否か迷うとき、さらには時間的な余裕があるかどうかすら解らない時には研修医のレベルで判断するには問題がある。そんな時には院内のルールに沿って指導医をコールし相談するべきである。
 指導医に相談するときはそれなりの決断と勇気が要るし、それが場合によっては大きなストレスとなることもある。本当は院内のルール云々とは別に、何時でも気軽に相談出来る親しい指導医を持つのが一番だろう。所謂、患者にとっての「かかりつけ医的な立場の指導医」を持つことである。この場合、何科の医師であっても的確なコメントをくれるだろうと思うし、的確なコメントを求めて専門医との間の橋渡しをしてくれるはずである。

 指導医に相談するときはポケベル等で都合を聞いて、少しでも対応出来そうな状態なら臨床資料を持参で駆けつける。さらに、出来ることなら患者を直接診てもらおう。私の場合、研修医の解釈を含む説明からだけでは判断しないし、出来ない。だから相談された場合には一緒に見に行くことにしている。
 1-2例を試しにあげておく。

 ある意識障害患者の無尿の対策を聞かれたとき、研修医の説明だけからの範囲では抗生剤による腎障害の様に思ったが、実際患者を見に行ったら下腹部に大きく伸展した膀胱が触れて尿閉であることが解った場合もある。そう思いこんでいる研修医の「思いこみフィルター」を通過した状況報告からだけでは指導医も同じ誤謬にはまりこむ可能性はある。私の前に相談受けた指導医は浸透圧利尿剤の点滴とループ利尿剤の投与のアドバイスをしていたから、患者にとっては一層大変な状況になっていたことになる。

 目眩がひどくて入院させた40代女性患者の主治医となった研修医が胸部レ線で右下肺野に直径3cmほどの円形の影があるとレ線をもって報告に来た。確かにその通りであり、研修医はすっかり肺ガンだと思いこんでいるようであった。目眩は脳転移かも知れないと言う。今後どうするのかと問うたところ、私のところに来る前に質問に備えていろいろ勉強して来たらしく10数種類の検査をあげて順々にやっていきたいという。何か異常な所見はなかったのかと問うてもないと言う。既に1年先輩の研修医の意見も聞いて考えてきたというから論旨は筋が通っており、言葉に自信がこもっている。ところがこの患者、背中に大きな脂肪腫があるのを私は救急室で気付いていたから結果的には同じ穴の狢にならずに済んだだけの話しであるが、その研修医にはとても良い経験になったはずである。

 研修医が判断に悩んでいる患者に助言する前に一緒に診ることは指導医にとっても大切なこと、だから、依頼すれば見てくれるはずなので遠慮しないで診察をお願いしよう。
 
次は「川の上流に別な犯人が居るかも知れない、と考えること」




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