卒後臨床研修必修化秋田大学方式と県医師会
卒後臨床研修必修化と医師会
卒後臨床研修問題に対して大学から県医師会には一切情報提供もなく医師会としては情報不足である.秋大は1/10に県内の病院院長を集め「秋田大学医学部と教育関連病院との懇談会」を開催した.また,2月上旬には大学は県内の病院にアンケートを配布するとともに協力型臨床研修病院もしくは研修協力病院としての協力を依頼した.医師会としては今のところその2つの資料から情報を得るしかない.
資料で見る限り,秋大では県医師会に特別の働きを期待しているような記載は見あたらないようであるが,医師会にとっては卒後研修問題のあり方は将来会員になるであろう医師の資質にも影響するのみならず,研修体制のあり方によっては県内の医師体制,すなわち地域医療の供給体制にも大きな影響を持つことから決して無関心ではいられない.
秋田大学方式の卒後臨床研修について
県内の卒後研修事情は,単独で臨床研修をおこなうことが出来る病院も4病院ほどあるが,総合的に診ても力不足は否めない.資料を見ると秋大が広く責任を持って卒後臨床研修を担うという意気込みと計画を感じられる.秋大では県内の病院に対して広く研修協力施設として参加を求めている.
しかし,研修のローテーション例を見る限り一年目秋大、二年目関連病院というふうに基本的には大学に研修医を多く留めておく様な計画になっているように見える.しかもその基本理念の中に「2年間の間に、専門性を備えつつ・・・」との記載があるのも気がかりでならない。私には、この秋田大学方式の臨床研修案の本音は、真に良い卒後研修のためなのか?という疑問が感じられないわけではない.
今の5年時の学生は既にインターネット等を通じて全国の大学病院の情報を収集しているが、彼らが今最も敏感になっているのは、そこの大学が本当に自分たちの立場に立って研修システム化を図っているのか、大学の立場で、すなわち研修医を集めることを主眼としているかである。その意味では大学1年、関連病院1年という東京大学方式は学生の間では厳しい評価を受けているようである。秋田大学方式も資料から見る限りでは基本路線は東京大学とほぼ同じでなかろうかと感じられる。
大学病院における卒後臨床研修の到達点は何か
研修の基本の場として,大学病院を中心に設定した時,果たして,十分な研修が出来るのか疑問を感じる.今回、何故に卒後研修が必修化になったのかを考えてみたときに,従来の卒後研修の多くが大学病院でなされてきたことの弊害や、派生した問題点が、主たる要因でなかったのか.
また、大学は今ですら卒前教育、臨床、研究の三本の柱を担っており、今ですらマンパワー、時間的にも余裕はないはずである。従来の如く、直接各診療科への入局であればそれほど研修に対してシステマチックでなくても、先輩医師との持ちつ持たれつの関係の中で徐々に臨床力がついて行くことを研修医本人も周囲もそれなりに容認してきており特に問題はなかったと考えられる。しかし、今後は異なる。恐らく各施設の研修実態、研修医の感想等はインターネットを通じてリアルタイムに報告されていくものと考えられ、研修内容は直ちに翌年の研修希望者の数や質に反映していくものと考えられ、研修病院にとって気を緩める余裕もなくなるであろう。
秋大には必修化カリキュラムのもとでの臨床研修を十分させるだけの時間的に、人的に,経済的に余裕があるのだろうか.しかも、平成16年には国立大学は法人化の波に巻き込まれると思われ、マンパワーは従来ほどは余裕を持てなくなる事が予想されている。
もちろん大学は今回の研修問題に対して十分な検討を続けてきたとは思うが,研修必修化の柱として挙げられている,
- 医師としての人格の涵養
- プライマイーケアへの理解、全人的診療医としての能力の収得
- アルバイトせずに研修に専念できる環境、
に関してどのような方針をもっているのか、まだ詳細は発表されていないが、外から予想するに良いアイデアにあふれているようには見えてこない。
これらの柱のうち1と2は,恐らく講義とかを通じて行われると思われるが、それでは殆ど身に付かないだろう。私は、これらに関しては、研修医が自らの眼で,手で,頭で,心で,病み悩める患者,家族の姿を診る事によって,さらに日本の医療の実体を身をもって体験することからしか生まれてこないと思う.その意味では大学病院が担っている臨床分野は初期研修には必ずしも十分とは言えない.
第三点については,生活に必要な最小限の収入が補償されなければならない.その人件費は今のところ研修担当医療機関の診療費用から捻出する方向にあるが,大学病院,あるいは厚労省はこれだけの人件費をどう捻出するのだろうか.保健所研修の間はどうなるのか、平成16年度からの制度というのにこの点がまだ不明瞭というのは、国の怠慢である。
地域の病院のネットワークを秋大を中心に構築を
県内の病院のうちのいくつかは今までも臨床研修病院として、あるいは独自の方法や立場で新卒医師の臨床研修を担って研修医を育成してきている。新制度のもとではすべての研修カリキュラムを単独の医療機関でまとう出来る所は少な。大学を中心に幅広いネットワークを構築し、各医療機関が持つ利点を利用しあうのが最も効率的な方法と考えられる。
従って、秋大方式として大学が中心になって研修を進めるにせよ、真によりよい卒後研修カリキュラムを設定するのであれば、もっと県内の病院を取り込み病院群として幅広く利用する方法を考えるべきではなかろうか.場合によっては秋大研修センターに属した状態で研修の大部分を県内の病院に委託する、そのような形を考えても良いのではないかと思われる。
卒後臨床研修必修化と地域医療
次の問題点は秋大方式の研修によって地域医療がどのように影響を受けるのかも問題となる。従来から新卒医師が地域医療の中で担ってきた役割は決して少なくないが、彼らが従来のような形で地域医療に参画することは無くなるが、これは大きな打撃である。同じ事は大学にとっても同様である。従来のような入局を中心とした新卒医師の流れが、少なくとも2年間は完全に停止する。そのために、ここ1-2年、大学病院の若手医師の抱え込み現象が全国的に見られて来ている。
研修必修化が始まったあとの最初の2年間は、おそらくは大学ではマンパワーは不足する事が予想され、そのために地域医療を担う中堅医師の流れも停止しかねない。このことは更に2年が経過して臨床研修修了者が世に出始めた後も、恐らく、数年間は変わらないのではないかと予想され、地域医療の立場からもこの臨床研修必修化は実に厳しい状況に対峙することになる。特に、医師の地域偏在が著しい秋田県の医療事情に対して大学側の長期的方針等の見解を聴いてみたいものである。
2003/2/24
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