日本医師会関係
緒言(HP掲載にあたって)
地域医療の中では病院が果たしてきた役割は大きいが、今、病院医療は経済主導の締めつけによって大きな転機を迎えている。それでも勤務医の医療制度に対する関心は低く、日本医師会の病院問題に対する対応も十分でない。本稿では、良き医療を住民に提供していくために勤務医が如何に行動すべきか、医師会とどうかかわっていくべきか、等について提言する。
損なわれて行く医療環境
従来、病院の勤務医は医療制度とか医療経済にさほど関心を持たずとも、与えられた環境の中で専門領域を中心とした診療が出来ていた。 しかし、勤務医の意識がどうであれ,医療は社会的,経済的状況の影響をもろに受けており、医療行為の自由度は徐々に制限されてきている。
小泉首相は厚生大臣を長く務めたが、日本の医療が歴史や文化を背景に、諸外国にはない特徴も備えつつ発展してきたこと、民間を始めとする医療機関、医療従事者の献身的労働によって成り立ってきたこと等への理解が欠けているようである.彼は我が国の医療を競争原理に立つ欧米型の医療制度に近づけようとしている。病院の医療費は国民医療費全体のほぼ3/4を占めることから、財政的抑制の 鉾先は病院医療に向けられ、改訂の度に厳しく締めつけられて来た。
本年4月の改定では 、限られた大都市にしか通用しないような論理で、病院医療の締め付けを行い、地方の病院、中小病院、私的病院の一部では従来行い得た治療・診療も行うことが出来なくなったところも少なくない.長年培ってきた地域医療の崩壊も懸念され、病院の中には存続すら危ぶまれるところも出てきた。
勤務医と医師会活動
国民の病院医療への期待は増大しつつあり、それに応えることも病院勤務医の喜びでもあった。しかし、日本の医療は、最も医療現場から遠い厚労省の官僚や政治家、経済界の知識人とされる人々によって撹乱されつつあり,医師のプロフェッショナルフリーダムはより一層狭められ、医療費抑制策による締め付けによって良好な人間関係を背景にした、患者の立場に立つ医療は提供出来難くなる.今,我が国の医療は史上で最大の危機を迎えている.地域医療を病院医師として担っている立場からもう黙って見ているわけには行かない。
これからの勤務医は医療の社会的側面に関心を持ち、病院の医療は病院医師が守るとの気概を持って医療環境,医療制度造りにも参加する必要がある。しかし、個々の医師は勿論、病院単位の医師集団としても全く無力な存在で何も出来ない。
日本医師会(日医)は学術専門団体として国の保健・医療・福祉に関する政策審議に参加し提言、施策の調整を行っており,政府・厚労省に意見を述べられる唯一の団体である。最近、日医総研を中心にあるべき医療のビジョンを次々に発表しているが、医療を預かる専門家集団として当然の行き方と評価できる。日医は国の医療行政を支えると共に、必要な時には対峙して行く事も必要である。本来,医師会員は自らの意見・意志を日医を通じて医療行政に反映させることが可能である。従って,日医には個々の会員の意志を集約する義務がある。しかし,現状では日医は病院勤務医会員にとって満足すべき機構・機能を有していない.
日医の勤務医、病院医療問題の扱いは疑問
日医会員の勤務医の比率は約半数である。しかし,問われるべきは数ではなく勤務医会員の会員としての姿勢である。 多くの勤務医会員は病院の都合で消極的立場で医師会に加入しているが、このことが勤務医会員の姿をゆがめてきて来た第一の原因であろう.日医は幽霊会員に近い勤務医会員に対し,会員としての資質の向上のために何ら有効な対応をしてこなかったし,病院医療問題に対する日医の対応は不十分なものであった.だから,今でも日医の中で勤務医会員は影が薄く,マスコミなどから「開業医の団体である日医は・・・」等と言われている.
勤務医を組織化,活性化するには、今の日医のままでは不十分である。日医は病院医療に関わる部署の機能を拡充し、勤務医の考えを集約し,政策や活動に反映させ、病院関係諸団体と連携しつつ行政に提言していくことが必要である.それによって勤務医会員は医師会の意義と役割を理解し、活動に加入し発言してくるであろうし,未加入勤務医の加入も期待出来よう。そのためには,先ず,都道府県、郡市区医師会も様変わりする必要がある。各都道府県医師会から選出されてくる日医代議員は高齢者(平均年齢68歳)が圧倒的に多く,勤務医の割合はたかだか20名(6%)程度でしかない.ご高齢の方々は,若い頃から地域でそれなりの医師会活動をされてきた方であろうが,日医代議員を名誉職とでも考えておられるのではないか?、それでは困る.この様な状況を,先ず各都道府県医師会が,各会員が異常と考え,世代交代等を進め,勤務医の代議員を増やすなどの対策をしないならば,勤務医の組織化など望み得ないし,若手医師の医師会離れは加速していく。
医師会加入のメリット・デメリット
勤務医の医師会加入を論じると常にメリット・デメリット論になる.勤務医が加入すればどんなメリットがあるのか,と問われれば私は「無」と答える.団体保険、医賠責保険、各種の情報誌等は、どれも勤務医にとって必須ではない.
診療所医師は殆ど全員加入しているが,何が加入のメリットなのか、実は私は理解出来ていない.組織に帰属することなのだろうか?.もしそれだけなら,勤務医にとって医師会加入に意義があるはずは無い.ほぼ全員が加入していることは医師会に何らかの意義や魅力があるはずだ.これについて誰も声を高らかに語ってこなかったことは勤務医の医師会離れ,無関心のルーツにもなっている.恐らく勤務医も共感出来る何かがあるはず,と私は考えたい.
医師には国の医療を,住民の健康を守る使命がある.医師個人個人は無力であるが,地域住民の健康を守る為に,患者に良い医療を提供するために,自らの生活を守るために、実地医家としての希望を実現するために、互いに結束して諸問題の実現解決に向けて活動していかなければならない.その為に医師会が存在すると考える。これは勤務医・診療所医の別を問わず,医師であれば誰にとっても共通の認識であるはずだ、と考えたい.
医師会に加入するメリットは,何が得られるのか,ではなく,医師会を利用して何をするか,によって決まるものだと私は思う.
勤務医の会費問題
医師会への加入は任意であり,個人単位である。多くの勤務医の会費は医療機関から支払われているようであるが,最近,国立病院で医師会費に関する通達を出し、基本的には院長一人の会費のみを病院払いにするとの方向が示され、その後,自治体病院や公的病院でも追従していく方向にある.
私的病院の場合の会費負担についてはその病院毎の事情で構わないと考えられるが、本来なら医師会活動に見合うだけの額,またはその一部を病院が会員へ報酬として支払い,会員はそれを個人で会費として納めるべきであろう.
5/14付けのメディファックスによると,近畿地方では会費の公費負担から個人負担への切り替えを機会に4/6府県で医師会の組織率が低下したとされ,ほかの地方からも同様の報告が見られている.秋田県では勤務医の割合が約60%と高いが,今のところ大きな動きはない。
医師会費を病院が負担するなら入会し、自分の懐を痛めるなら脱会する?、私には理解が出来ない。自らの希望を実現するために組織に参加するのであれば応分の負担は当然であり、痛みを感じるほど懐を痛めて当然である。公的医療機関の医師の給与は医師会費を負担出来ないほど少ないとは思えない.医師会活動は経費がかかるものだが,会費が高すぎるというのであれば活動内容を検証し,発言すればいい.その機会は与えられている.
医師会が個人加入であることを考慮すると、国立病院,自治体病院医師の医師会会費が公費によって賄われることの問題点はあるだろう.が,この点は検証を要すると思う.
医師会活動は私的活動なのか
国民の健康を守るのは国の責務である。医療は医師がそれぞれの立場で担っているが,地域医療を円滑に行うためには行政と個々の医師との関連では到底進まない.従って,医師の機能的集団,すなわち医師会とのタイアップは欠くことが出来ない.そのなかで病院が担うことを期待される分野も次第に大きくなってきている.現に,最近の法律の運用規定、政府・厚労省からの通達、秋田県の条例等をみると「医師会等の関連団体の協力を得て・・・」との記述が多くなってきており,現実に秋田県の各部署と県医師会の連携は年々広く、深くなって来ている.従って、公益法人である医師会を介しての組織的医療活動の殆どは公的な役割、業務と認められてしかるべきものである.
医師会は各医療機関にたいし,私的、公的を問わずその機能に相応しい対応を期待しているが、そのかなりの部分を診療所を始めとする私的医療機関が担ってる.この際,仕事の大部分は多忙な診療の時間に上乗せする形で,私的な時間を削って担っており,報酬は少なく殆どボランティア活動に近い。
公的医療機関は医師会を介した医療活動に対し積極的に活動の一端を担うべきであろう.従って,院長一人が医師会員で良いと発想すること自体,地域医療における公的医療機関の果たすべき役割を軽視した暴論に思えてならない.
公的医療機関と言えども医療制度改革の影響はもろに受け,経営は徐々に困難になり,結果的に地域住民に良い医療を提供出来なくなっていく.自治体,公的医療機関の勤務医はこれを静観していくのだろうか.それだけではない,医師会員である勤務医の減少は,地域の医療・保健・福祉活動にも影響が及ぼしていくであろう.公的医療機関の医師が医師会に加入することの意味は決して小さくない.各医療機関の長は設立母胎である自治体に対して医師会活動の意義を述べ,一方的に国立病院に追従することの問題点を主張していただきたいものである.
地域医療を円滑に推進するためには公的医療機関が率先して担うべき分野も決して少なくない.救急医療等がこれに相当する代表であるが,それだけではない.公的と称される医療機関はそのために国や地域の援助を得て経営がなされているのであり,勤務している医師や職員達もその自覚が必要である.公的医療機関としての特徴が発揮されなければ,いずれ職員の資質が問われるであろうし,存在意義さえ問われることになるだろう.
終わりに.勤務医の医師会参加は如何にあればいいのか
勤務医の医師会参加について愚論を述べた.全ての勤務医が医師会の意義を認め,加入して活動することは理想であるが,現実には個々人の性格もあり,考え方もあろう.如何にあれば良いのかを考えたとき,会員の一人として医師会活動に関心を持ち支える,そのような会員から,執行部の一人として積極的に活動していく会員まで幅広く存在して良いと考える.ただし,従来のごとくの幽霊会員であって欲しくはない.病院医療にまつわる諸問題は病院医師が自ら考えて対処して行くべきであるし,そのために医師会活動は意義あることと考える.