会員の声
インフルエンザワクチン
6万本の供給で十分なのか
以下に記すのは「会員の声」に投稿されたある医師会員の文章である
10月27日さきがけ紙朝刊で、「この冬は不足しません 県内 インフルエンザワクチン 先年に比べ倍 約6万本確保」という見出しの記事があった。その中で6万本の供給によって「昨シーズン社会問題化したワクチン不足は十分解消できるのではないか」という県医福田常任理事のコメントが載っていたが、私は驚いた。6万本よりずっと多くの人がワクチン接種を受けるべきだと思うからである。どのような人がワクチンを受けるべきかに関しては、日本医師会や国内の関連学会から何らかの勧告が出てるのか寡聞にして知らないが、10月4日号のJAMA(アメリカ医師会雑誌)の「患者へのページ」には次のように載っている。
- 50歳以上の人
- 慢性疾患で長期療養施設に入っている人(日本なら、介護型施設入所者や長期入院患者)
- 心疾患、肺疾患、腎疾患、喘息、糖尿病をもつ人
- 免疫不全の人(エイズなどの免疫不全患者、免疫抑制剤被投与者、担癌者で放射線療法や薬剤で 免疫系に影響を受けている者)
- 生後6カ月から18歳までの者で、アスピリンを投与されている患者(ライ症候群の予防)
- インフルエンザ流行期(11月から4月)と、妊娠4カ月以降が重なる可能性のある女性
- インフルエンザ患者と密に接する医療関係者およびその家族
日本の多くの医師にとってもこの勧告は納得できるものであろう。医師は住民にワクチンの効果と適応を啓蒙するべきだ。
さて人口120万人の秋田県では何本必要だろうか。上記の「50歳以上」を、やや妥協して「70歳以上」に変えてみても、おおよそ20万本かそれ以上は必要と考えられる。(なお、1本で2人に注射するならその半分ですむが、6万本ではあきらかに足りない)
以上から、さきがけ紙における福田常任理事の上記コメントは理解できない。
この問題に関しては、医療側の論理のほか、役所の論理、製薬会社の論理があるだろうから単純ではないと推測しているが、医師側はあくまで患者や住民の健康を最大限に考えて医学的な主張をするべきであり、安易な妥協は社会のためにならない。
さらに私の考えでは、十分なワクチンの供給には国が経済的援助を行うとともに、高齢者の接種にも国が経済的援助を行うよう医師会は要求するべきである。
「会員の声」について 山本会員へ 常任理事 福田 光之
私が関与したさきがけ記事をもとに、「会員の声」にご投稿いただき有り難うございました。いつも貴重なご意見を戴き、有り難く思っております。
大変厳しい論調でご批判をいただいております。私が記述した文章であれば、あるいは校正した記事であれば、私がすべて責任を負うことは当然です。インタビュー等の場合、引用は先方の判断ですのでなかなか満足できる場合は少ないのですが、やはり責任の一端を負わなければならないと思います。その意味で今回のご指摘を謙虚に受け止め、今後に役立てたいと考えます。
私は自分が関与している分野については報道関係者のインタビューや面会の申し出には可能な限り対応しています。医療は先方にとっても理解が困難な分野です。視点・着眼点がわれわれと異なることは当然ですが、誤認・誤解の上に論旨を組み立てていることも少なくなく、そういう場合には是正してもらわねばなりません。多くは直接会って時間をかけて説明し、必要に応じて資料も提供しています。結果的にはそれなりの成果は出ていますので意義あることと思っています。
今回は電話インタビューでした。上記のような考えでインフルエンザワクチンの過去と現状、将来のあり方について説明しましたが、その際、記事に引用された内容を含む話もしたと記憶しています。正直なところ私自身もその部分だけ短く引用されたのを残念に思っています。これを機会に、特に電話インタビューへの対応について考えることとします。
先生が秋田医報他で主張を展開されることは素晴らしいことと常々思っておりますし、どしどしやっていただきたいものです。今回、ふれておられる項目についてコメントいたします。
若干の相違点はあるものの私もインフルエンザに関して先生の記載内容に近い考えを持っております。というよりは感染症に関心のある医師の一般的な考え、と思っております。
秋田県で確保されている6万本と言う本数については十分な量とは思っておりませんが、医療機関の予約量よりは多めに確保されており、現実に即した本数と考えています。理由は、今年度の生産本数は、全国約7000医療機関の実態調査、需要調査を参考に決められていること、最盛期の僅か2%程度にまで生産ラインを縮小していた業界にとって今年の700万本は最大限の生産量だった、と評価出来るからです。
2001年度は今年よりも多くの生産量を確保すべく既に対策が始まっており、まもなく実態調査・需要調査が始まります。
一方では、昨年ですらもかなりの返品があった事実などから流通面での改善も指摘されており、医師会としても行政と協力して対策する必要があると考えております。
医師会は、ワクチンの公費負担を要求しています。県の感染症関連委員会、日医の協議会では何度も話題にしております。しかし、公費運用の原則からは、任意または勧奨接種の段階では公費負担は実施不可能と言うことで法の壁に当たっているのが現実です。
(なお、本号に転載した厚生省の文章の後に小文を用意しておりましたが、山本会員の投稿と重複点が少なくないので削除しました。)
秋田医報1122号 /2000