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禁煙のはなし 


2002年

禁煙キャンペーン米国事情 女子の喫煙はやせるため?
 米国では禁煙キャンペーンに年間数10億ドル費やされ、またもタバコ税が18州で値上げされた.それでも1日に初めてタバコを口にする未成年者は5000人近くで、その内の半数以上が習慣化するとされる.喫煙者の80%が18歳以下で吸い始めていることから子供達が何の切っ掛けで喫煙を始めるのか研究者達は注目し調査研究している.今わかっていることは14歳の女子は同じ年齢の男子よりも2倍も喫煙率が高いが、吸う理由はやせるためという.全女性の30%は肥満抑制のために喫煙していると推定されている.ニコチン中毒には長期間要するとされていたが、実際には数日間でなるヒトもいるらしく、特に女性にその傾向が強いという.子供達が喫煙者になる最大のリスクは両親の喫煙.

 2ヶ月ほど前に日本医師会の公衆衛生担当理事連絡協議会があり、「国際たばこと健康研究所」所長 Sir David Simpson氏の「医師とたばこ:医師・医師会は今何をやるべきか」を聴く機会があった.講演自体は傾聴に値するものではあったが、質疑応答の中で
子供の禁煙が取り上げられたが、「実に困難な問題であり、寧ろ何も対策しない方が良い結果の場合もあるので講演の中では特に触れなかった。喫煙率の変化は子供が吸わないことではない。喫煙者が止めること。子供の禁煙に関する領域はまだまだ検討を要する、成功率の低い試みである。」と、腰折れの解答でガックリ来たが、事実困難な領域なのであろう.
 タバコが存在する限り喫煙は無くならない.究極的にはこの世の中からタバコを無くすることしかないのだ、と思うのは簡単だが・・・せば、何とする??
                         (2002/12/5)


2003年


県医師会理事会が禁煙に。「20歳になったらタバコを止めよう」運動を
 日本一の長寿者といわれた泉重千代さんは長い間キセルで煙草を吸うのを常としていた。その理由は医者の「煙草をなるべく遠ざけるように」とのアドバイスを忠実に守ったからだという。ホントかね?

 禁煙論が当たり前になった今、殆どの人々が煙草の害、副流煙の害について一家言をもっている。にもかかわらずなかなか禁煙が進まない。特に青少年の喫煙が一向に減少しない。

 本日、法人理事会の席で急遽会議中の禁煙が提起され承認された。法人の禁煙化のプロセスで本日の決定は大きな意義がある。
 最も熱心に禁煙運動に取り組んで実をあげているのが米国であり、これを推進しているのが米国公衆衛生局で、ターゲットを子どもにまで広げ、学校の保健教育の中にもプログラムを導入し、「禁煙化は子ども教育から」と運動を展開している。しかし、民間レベルでは全く矛盾した流れがあるようだ。共和党大会ですら1990年には「米国人はたばこを吸わなくなったので、積極的に輸出していかねばない」と語られたという。こうした方針によって「アメリカたばこ」の広告は世界中にあふれる様になった。

 果たして,理念とか身体への害をいくら強調しても青少年には殆ど効果がない。彼らには健康維持に関する関心などはなく,ましてや大人の感覚での理念の強調など効果があるわけはない。青少年への禁煙は小学生の時からの教育と,社会からたばこを撲滅するしかない。ところが,我が国の社会自体がこの両者になかなか理解を示さない。未成年の喫煙を容認するわけではないが,喫煙者の大部分は中高校生の時からである。だから,発想を変えて「20歳の禁煙運動」も必要であろう。

 今から15-6年前秋田県民医連学術集談会の会長としてこの会を運営したとき,そのメインテーマを私のごり押しで「禁煙問題」とし,パネルディスカッションでも取り上げ,医療従事者として健康に害のある喫煙問題を放任していてはならないと言うことを強調した。この試み自体に真っ向から反対する意見も多く,協力者もさほど得られず苦労したことを思い出す。

 隔世の感を禁じ得ない。目立たない存在であるが私も禁煙論者の一人なのですよ。

                       (2003/6/27)




上には上が・・ 県医師会禁煙ポスターと白鳥(Swan=吸わん)
 
県医師会では健康秋田21計画に対して協力・助言を行っており,特に禁煙問題に関して担当常任理事の提起と裁断,実行力で次々と施策が実行されている。県医師会館は禁煙になったし,入居している総合保健センターもまもなく全館禁煙になる。

 本日の郡市医師会長協議会の席上で県医師会の禁煙ポスターが担当から提起された。白と赤を基調とした変哲のない,禁煙マークを中心にしたデザインで,下1/4ほどが黄土色に塗られ県医師会とかの字句が入る。これは,たばこのフィルターをイメージして創ったという・・・マアマアだね,と思いつつ見ていたら,白い背景にうっすらと大型の鳥のシルエットが描いている。白鳥らしいが,白鳥が何で禁煙ポスターに登場してきたのか?白い爽やかなイメージだからか?と思っていたら,担当常任理事の説明があって「白鳥 = Swan = 吸わん!」と言うことだそうだ。言われてみれば納得。十二分に感心した。禁煙マークと白鳥,予想外の組み合わせが,何とも言えず素晴らしい。

 私は常日頃から禁煙のキャンペーンにはヴァイオリニストの諏訪内晶子さんを用いてはどうかと考えていたが,語呂合わせにはちょうど良いが余りにも直接的で面白くもなんともない,本人も多分喜ばないだろうな・・と思っていた。  

 今回の白鳥は意外性を含め100点満点をあげたいものだ。担当常任理事は広報を担当していたときも時折発想の冴え,豊かさを示していたが,今回が一番である。ただ,説明無しのポスターのようだから,見た方の何人が「白鳥 = Swan = 吸わん!」を意識できるだろうか。隅の方にでも小さく説明書きを入れてはどうか,と思った次第である。

 私はくだらん駄洒落を連発する傾向があるが,正直、彼の足下にも及ばない。

                         (2003/8/27)

2004年


15年以上も前、私は学術集談会で禁煙を取り上げた
 
今は社会的に禁煙の運動が盛んで、喫煙者はさぞや肩身が狭いことであろう。  
 私が勤務する病院でも一昨年あたりより急激に禁煙運動が盛り上がり、紆余曲折を経ながらも4月の新年度から全館禁煙になる。間もなくである。

 私はやっとここまで来たか、と言う感慨も持つ。

 私は現在の病院に勤務して間もなく、第16回秋田民医連学術集談会なるものの運営委員を押しつけられた。丁度カモが外から入ってきた、と単純に割り振られただけであったであろうが、その時、パネルディスカッションで「医療機関内における禁煙」を取り上げた。医療関係者としてこれほど健康に悪影響ある生活習慣を民医連の医療機関として放置しておくべきでない、との視点からであった。実は、これは私のオリジナルではなく、大曲中通病院で禁煙運動を進めていたあるY医師の姿勢に共感したからである。

 実行委員会の中でもこの話題でパネルディスカッションを催すことには否定的意見の方が多かったが、実行委員長の権限で押し切った。しかし、民医連秋田県連の理事の一部は私に対して強行に内容変更を求めてきた。「秋田民医連学術集談会ではこんな小さな話題を取り上げるべきではなく、国や県の医療、民医連医療のあるべき姿を論じるべきだ」との趣旨であったが、それでも私は押し切ってしまった。

 パネルディスカッションの前に全職員に対してアンケート調査を行い、一医療法人の職員の意識調査行い貴重な結果が得られた。その結果は中通病院医報30(1):10-27,1989に掲載されているが、後に「労働の科学」という雑誌から依頼され、再編して投稿した。

 パネルディスカッション「医療機関内における禁煙」自体は盛り上がって良い討論が出来たとは思うが、この試みが当法人内の喫煙にいかなる影響を及ぼしたのかについては、恐らく全くゼロに近かったのであろう。その頃はまだ社会全体が甘すぎた。要するにわれわれの試みは時代を10数年早取りしていたのだ。

 過去に秋田民医連学術集談会で喫煙問題を取り上げた事などもう覚えている職員も居ないだろうが、当法人はこの分野でも先進的一歩は踏み出していたのだ。

                          (2004/3/10) 




病院全館禁煙の波紋と討論をめぐって(1)
 10数年前に秋田民医連学術集談会で喫煙問題を取り上げ、「医療機関内における禁煙」と題するパネルディスカッションをやった事などもう覚えている職員もいないだろうが、当法人はこの分野でも先進的一歩は踏み出していたのだ。

 あれから10数年、時代はすっかり変わってしまった。世を挙げての禁煙運動である。喫煙者はすっかり肩身が狭くなってきた。一昔前と違って禁煙運動もやり易くなってきた。とても良い時代になったと思う。

 一方、病院の運営を担当する側にしてみれば困難な調整を求められることになった。否、調整の困難さどころか、対応に時間を取っていると「生っちょろい」、「無能だ」・・・などとなじられる、そんな時代になってきた。
 到達点は同じであることは論を待たないが、管理する側の気持ちは禁煙運動推進者にはなかなか理解が得られない。結果的に、昨年夏、当院も院内完全分煙を達成、本年四月からは全館禁煙となった。

 先進的考えに沿って明日からでも敷地内完全禁煙と決めることは不可能ではないが、言うのは簡単であるが、そんな決め方をすれば必ず何処かにひずみを生じることになる。そのひずみは大きな災害の原因にも成りうる危険をも包含する。だから当院では段階を十分に踏んでいる。

 時間的に余裕を持って進めたのは喫煙する職員に禁煙のための時間を与えることであった。要するに、どうしてもタバコを止められない喫煙者は病人であると言う視点である。離煙のための治療する、治療を受けるための時間を与えたものである。この期間内に禁煙に踏み切った職員も少なくないと聞く。大きな進展であったと思う。

 喫煙者には喫煙の害を広告する様にしたが、禁煙区域は現状では全館であり、敷地内での喫煙は禁止していない。その結果生じた現象は、敷地内の多くの場所での喫煙であり、吸い殻のポイ捨てであり、かつ、院内のゴミ箱から吸い殻が見つかるという重大な事実であった。

 この、ゴミ箱から吸い殻が見つかると言うことは、実におぞましいことであって絶対にあってはならないことである。

                          (2004/6/3)



病院全館禁煙の波紋と討論(2)私は敷地内に吸い殻捨て容器の設置を求めた
 全館禁煙がもたらした現象は、敷地内の多くの場所での喫煙であり、吸い殻のポイ捨てであり、かつ、院内のゴミ箱から吸い殻が見つかるという重大な事実であった。この、ゴミ箱から吸い殻が見つかると言うことは病院の安全対策上絶対にあってはならないことである。

 恐らく、捨てられた吸い殻は缶とか携帯用の灰皿が一杯になったために捨てたものであろうと推察は出来るが、そんなことはどうでも良い、吸い殻がゴミ箱に捨てられること自体、喫煙者のマナーの問題を含めて禁煙問題の複雑さ、重大さ、を示している。

 私は吸い殻捨て用の容器の設置を強く主張した。

 いろいろな会で概ね以下の如くに発言している。勿論、多くの方々の意見も参考にしている。鋭く反対されていることも知っている。

● 禁煙問題の解決は、社会から喫煙者、特に若年者の喫煙を減らすことにある。

● それに協力し、寄与することは医療関係者、医療機関として当然の責務でもある。

● 究極的には敷地内を含めての禁煙である事は論を待たない。その点では禁煙推進の方々と到達点は同じと思う。

● その到達までは徹底した分煙の追求。当面、少なくとも医療機関内では完全分煙であるべきである。分煙の目的は非喫煙者の安全の確保であり、喫煙者の締め出しが主目的であってはならない。

● 敷地内禁煙が最終目標としても、方法としては段階を踏まざるを得ない。まず、館内完全禁煙から始めたい。当院の敷地内を禁煙にすることは不可能ではないが、それだけでは喫煙問題の根本的解決にはならない。現状では単なる締め出しでしかない。

● 現状で敷地内禁煙にした場合、問題を敷地周辺の道路や住宅近接区域に拡げていくことになるだろう。これを喫煙者の方のマナーの問題だ、と私は言いたくない。周辺地区の方々の安全確保にも、清潔保持にもわれわれは責任を負っている。

 全館禁煙に踏み切ったことで二次的に現実に生じた現象は、トイレ等での喫煙、敷地の各所での喫煙、吸い殻のポイ捨て、各所の院内ゴミ箱から吸い殻が見つかったことであるが、これらは喫煙者のマナーを含めて喫煙問題の根の深さを示している。吸い殻のポイ捨て、院内にゴミ箱に吸い殻が捨てられることは、火災という取り返しのつかない大事故にもなり得るために絶対に看過出来ない。これは最優先して回避しなければならない。そのために敷地内に吸い殻捨て専用の容器を設けるべき。吸い殻捨て専用の容器設置すれば、そこの場所で喫煙する者が生じるであろうが、これは新たな対策に伴うひずみであり、やむを得ない。敷地内各所で吸われるよりは私は良いと思う。

 次の目標は喫煙者数自体を減らすことである。方法としては来院時、入院時の協力要請、駄目なら他の医療機関を紹介しても良い。喫煙者であるということでの来院や入院拒否は出来ない。入院を機会に禁煙を勧め、希望者には禁煙治療も勧める。

 時間もないし、きりがないから止めた。意見を書けば書いたで別の意見を持つ方々から激しく追求されるだろう。

                          (2004/6/4)



病院全館禁煙の波紋と討論(3)早速メールがありました
 
私が担当している外来に定期的に通院されている女性の患者さんから早速喫煙に関するメールが入りました。ご本人の同意がえられましたので原文のまま掲載させていただくことにしました。

 『ホームページチェックが日課になりました。 6月3日「徒然日記」から喫煙について。

  私は日ごろからストレスになっておりましたので・・・。4月、5月の通院時、玄関前で4,5人の喫煙者の煙の中を通り過ぎなければならず、大変不愉快になりました。血圧が、かなり上昇したと思います。看護師さんにお尋ねしましたら「全館禁煙、喫煙室廃止でやむを得ない」との答えでした。 吸殻が散らかり、病院外は、まるで喫煙者のためのロードと化して行くようです。   秋田は、喫煙者に甘いようで、かつて秋田市長へ質問したことがあります。公共の場所での禁止を提言しましたが、・・・。アトリオンなどは、今でも、ご丁寧に煙を浴びてからの入館となる始末です。全店禁煙表示の飲食店をさがすのは至難の業です。かつて仙台の開業医が、「水虫(スリッパに履き替えでしたので)は治療してから、喫煙者は禁煙してからご来院ください」と掲示しておりました。私は先生に大いに拍手したものです。

  タバコは嗜好品ではないニコチン中毒患者との認識を、お医者さんからの立場でアッピールしていただきたいと考えています。なにがなんでも理由の如何に関わらず・・です。』

 Y.Sさん、ご意見どうも有り難うございました。私のタバコに対する現状の姿勢、考えは「全館禁煙の波紋と討論(1)(2)」の通りですが、最終的には社会からたばこが消え去ることだと思っています。

 以下に若干だけ追加致します。

 私は喫煙を単なる嗜好品とは考えてはいません。軽重様々なニコチン中毒、すなわち病気だと思っています。仙台の個人の診療所の医師の姿勢と主張は良いと思います。ただ、喫煙する方が来院したらどうするのでしょうか??他の医療機関に紹介すれば問題はないでしょうが、喫煙者だからと言って診療を拒否すべきではありません。医療機関はその規模に応じて社会に対して担うべき責任があります。喫煙者であっても不調を訴えて受診された方には、入院医療を含めて公平に医療を提供しなければなりません。

 受動喫煙で他人が健康被害を受ける事を防止するために、医療機関内完全分煙、館内禁煙は当然です。敷地内禁煙を一気に達成しようとすることも不可能ではありませんが、現況ではその歪みは必ず来ます。その前にやるべき準備があります。

 何れ、環境を整備して敷地内禁煙に踏み込む予定ですので今しばらくお待ち下さい。

                         (2004/6/5)

2005年



中高校生の喫煙率減少に携帯電話が寄与??(1)
 今朝出がけにラジオがちょっとした良いニュースを流していた。中高生の喫煙率が大幅に減少したというものである。

 厚労省が調査している10万人規模のアンケート調査の結果が話題にされていた。アンケートの前の一ヶ月間に一本でも喫煙したという高校生は2000年度は37%、2004年には22%、中学生男子の場合、7%前後であったのが3%前後と両者共に激減している。

 あれほど、特に、ここ20数年ほど教育現場でも禁煙教育がなされて来たのに、私も5-6回ほど中高校生の前で喫煙の害について講演したことがあるが、殆ど見るべき効果がなかったのに、一体どうしてなのだろうかと訝りつつ聞いていた。

 減少してきた原因として、公共の場の禁煙化等社会全体が禁煙化の方向に進んできていること、大人の喫煙率が減少してきた、学校教育の中に禁煙教育が積極的に取り上げられ、単なるダメダメ的な押しつけだけでない、科学的事実を提示しながらの新しい視点での禁煙教育、受動喫煙の害についての教育がなされていること、教師自身の学校内での喫煙が減少、が挙げられていた。さらに、最後に携帯電話代金の捻出のため、たばこを買うお金が無くなっている、と言う理由を挙げて居た。
 確かに、旧来の禁煙教育は道徳教育に近く、大人や教師は堂々と喫煙した状態で20歳になるまではだめ、と言う理屈にならない理由を前面に押し出しての教育がなされてきた。これでは効果が上がるはずがない。さらに、この年代の子供達に健康被害について一般論的に述べても効果は殆ど無いのだ。

 中高生の喫煙率低下にダイレクトに影響与えたのが携帯電話だと言うから、面白いやら、情けないやら、である。マア、どちらにせよ中高校生の喫煙率が低下していることは良いことだ。

                         (2005/9/29 )


中高校生はの喫煙率減少に携帯電話が寄与??(2)
  
 実際に残念なことではあるが、どんなに説得しても効果が乏しい場合、経済的締め付けを持ち込むとてきめんに効果が現れる。だから、税収アップと禁煙運動をリンクさせてたばこの値段を引き上げることも取りざたされている。

 最近の中高校生は携帯電話を持つことがほぼ当たり前になってきており、持っていない生徒・学生の方がめずらしいとのことである。ところがこの携帯の代金がバカにならないらしい。5000円から2万円程度はざらという。子供の電話代金をそっくり支払っている親バカもいるようだが、携帯電話購入の際に自分の小遣いの中から賄うようにと言う条件を付けて買い与える親が大部分だとのことで、子供達は電話代金の捻出のためにタバコを控えていると言う。

 思いがけないところから禁煙効果が上がっている。

 携帯電話自体の問題点も社会的にみていろいろあるが、理由は何であれ若い人たちの喫煙率の低下は国民的視野での健康維持にも重要な意義があるから、良いことだと割り切ろう。
 先日の師長歓迎会での席上、私の前には今年入社したフレッシュで美人の看護師、助手さん達が座っていたが、見事な仕草でタバコをくわえていた。病棟では全くその雰囲気もないが、タバコをくわえた瞬間からフレッシュで美人とは言いたくなくなる。

 勿論、彼女らは携帯電話も持っている。経済的に両立出来ている彼女らに禁煙を求めるときはどんな理由が通用するのだろうか?と考えつつ過ごしたが、答えは見つからなかった。

                         (2005/9/30)

2006年



全館禁煙から敷地内禁煙に(1) 県民・国民の健康を守るために
 全世界で少女の喫煙が急速に増えている、とWHOが警告している。
 日本も例外ではない。男性の喫煙率は減りつつあるが、若い女性の喫煙率が増える傾向にある。20-30代では今や5人に1人が吸っていると言う。受動喫煙を含め、喫煙の害は身体的のみならず、心にも影響を与えるし、社会的にも多方面に害を及ぼしている。医療費高騰の一翼にもなっている。

 当院では全館禁煙にしてから3年ほどになる。院内の環境はとても良くなった。しかし、医療機関としてこのレベルに留まらず、更に進んだ対応をすべきであるとの意見は根強いし、私自身もその方向には賛同してきた。

 5月31日は世界禁煙デーで、6日まで禁煙週間であった。昨年度、院内で「禁煙問題対策検討委員会」を立ち上げ、今後当院で取るべき対策について検討を委嘱したこともあって、私自身も喫煙についてどの様な方針を出すべきかいろいろ考えてきた。7月、検討委員会から敷地内禁煙に向かうべきである旨の意見が提示されたのを受け、長副会議で検討を加え、昨日朝の管理会議にて2007年1月から敷地内禁煙を実施することを報告した。

 私自身は一切吸わないこともあって、従来から禁煙論者であり、禁煙運動にもマイルドに参加してきた。

 20年ほど前に秋田県民医連学術集談会の実行委員長を引き受けた際には、良い機会が与えられたと思いパネルディスカッションで喫煙問題を取り上げた。この企画に対しては疑義が多く出され、強い抵抗があったが押し切ったことを懐かしく思い出す。こんな企画がかつてあったことなどもう誰も覚えていないだろうと思うし、当時は企画を押しきったと言うことも含め、むしろ反発を買ってしまった、と言う印象であった。やはり、早過ぎたのかもしれない。プライベートには3人の子供達には絶対に吸わせないよう日常から指導したほか、吸った事を私が確認した際には学資その他の援助を一切絶つ旨を宣言して育てた。さいわいにも、子供達との付き合いの中で喫煙に関しては最近に至るまで一度も疑うべき事象はない。

 私にとっても今年の世界禁煙デー、禁煙週間の際の考察は大きな意義があった。

 全館禁煙から敷地内禁煙に踏み込む目的は、健全な次世代を育むためにたばこの害から青少年を守ることである。そのためには禁煙文化の底上げが必要であり、医療機関の責務は大きいと考えるからである。

                          (2006/8/28)



全館禁煙から敷地内禁煙に(2) ちょっと過去を振り返ってみると
 喫煙の害はここで枚挙する必要もないほど分かり切ったことである。たばこは全ての年代、男女にとって害があり、早く吸い始めるほど、喫煙期間が長くなるほど健康への害が蓄積する。長期喫煙者の発ガン性が非喫煙者のそれに近くなるのに禁煙実行後5年はかかると言われている。

 さらに、女性の場合は不妊症になる可能性があるほか、妊娠や出産への悪影響も大きい。妊娠中の喫煙は受動喫煙の影響も含めて胎児に異常を引き起こす可能性が高く、無視できない。

 だから、あらゆる機会をとらえて、たばこの害を知らせる、吸いにくい社会にし、安易に手を出す人を減らし、禁煙の輪を広げる、他人が出す煙を吸わずにすむ環境に変えていく、そんな幅広い対策が必要となっている。

 私どもがパネルディスカッション「医療機関内における禁煙」を行ったのは平成元年(1989)であるが、その後の社会における禁煙運動の動きは遅々としつつも確実に進展し、禁煙文化が高まっていった。平成15年、日本医師会が「禁煙椎進に関する日本医師会宣言」を発表し、医師及び医療関係者の禁煙と、医療機関、医師会館の全面禁煙の推進を提唱した。同年には秋田県医師会も分煙に踏み切っている。

 平成15年に健康増進法が施行されて、学疫、病院、官公庁、その他不特定多数の人が集まる場所での受動喫煙を防止する努力目標が定められた。翌平成16年に政府が「たばこ規制に関する世界保険機構枠組み条例」を批准した。この条例は、「現代及び将来の世代を、たばこの煙に曝されることによって起こる健康的、社会的、環境的、経済的被害から守る」事を目的とし、価格、税金の引き上げや受動喫煙からの防護、製品の警告表示の強化、未成年者への販売防止などを定めたものである。これらのことによって、わが国のタバコ対策は大きく進むことになった。

 われわれ医療機関の従事者は、診察室に訪れる患者に良い医療を行うと言う範囲で満足し、留まっていてはならない。われわれはいわゆる楽しみを売るサービス業でなく、健康危機管理業である。国民や県民の健康と生命を守るためには後手に回った対策だけでは不十分である。禁煙教育や禁煙指導のリーダーとして禁煙文化の底上げ、熟成のために努めなければならない、と思う。

                           (2006/8/29)

全館禁煙から敷地内禁煙に(3)喫煙は火に水と油をかけるようなもの
 患者は疾病そのものに対しては適正な薬物療法等の治療は受けているが、ひとりの人間としてベストな治療を受けている、と言えるのだろうか。

 例えば、狭心症や心筋梗塞の既往があり、血管形成術を行い、大量の薬物療法を行っているのに、喫煙を許容する主治医、高血圧症で血管拡張剤を含む各種の降圧剤を処方する一方、強力な末梢血管収縮作用のあるタバコを許容する医師、これでは、水と油を同時にかけて消火しようとしているのに等しい。医療とは何か、と言う根本から問われかねない重い課題である。

 概して我が国の医師は生活習慣とかの改善に対する指導の重要性に関して関心が薄い。これは医学教育の有り様からも問題になる。木を見て山を見ない、患者そのものよりも疾患を医療の対象にするよう教育しているからである。その病態が、症状が治療によって是正されるとそれで解決、と考える。コレステロール値が少し高いと脂質低下剤を、血圧が高いと降圧剤を、同じように簡単に病名を付けて胃薬、睡眠薬といった具合に直ぐに薬物療法を開始していく。これでは徐々に薬剤数は増えていく。

 本日初診した患者は2ヶ所の病院から何と23種類の投薬を受けていた。私は今日からでも半数程度に減らしたいと考えたが、患者は完全に薬物依存になっており、1剤だけの減薬のアドバイスをしても耳を貸さない。これは患者の性格もあるが、完全に医原性薬物依存症と言わざるを得ない。この患者は私宛の紹介なのでしばらく外来でおつきあいすることになるだろうが、正直気が重い。

 医療は医師と患者との共同作業である。目先の疾患だけに目を奪われず、一人の人間としての治療を行うことが重要である。

 以下は1989年に私が書いたパネルディスカッションで「医療機関内における禁煙」のまとめの序文である。17年前の文章だが、今書いてもほぼ同じ文章になるだろう、と思う。 

 【喫煙は喫煙者自身の健康を害するのみでなく、受動喫煙によって非喫煙者にも悪影響があることも知られ、最近では一部の人々の地道な運動で公共の場所などでの喫煙制限も徐々に広まりつつある。しかし、タバコは嗜好品として古くから親しまれ、喫煙も社会的に容認されて広く浸透して来たためか、受動喫煙の害がこれほど叫ばれていても喫煙者の行動にはまだ大きな変化としては表れていない。
 医療関係者は喫煙の健康に及ほす影響については良く知っていながら、一般に、禁煙、嫌煙運動に対しては消極的である。喫煙が悪化因子として重要な意義を持つ愚者にさえも禁煙を強くは求めず、そのため患者も安易に考えて喫煙し続けている場合が多い。

 我々は慢性疾患の診療などで、タバコに限らず疾病の悪化因子を排除するという重要な生活指導を軽視してはいないだろうか?反省してみる必要がある。】

                        (2006/9/4)




全館禁煙から敷地内禁煙に(4)禁煙領域を広げよう たばこの値上げも良い
 日本は先進諸国のなかで最もたばこの消費の多い国である。先進諸国の肺癌死亡数が減少しつつあるのに、わが国では増加している。たばこに関連した医療費の高騰も無視できない。従って、国民の健康を守るために、たばこ対策における医師の立場の重要性を認識し、患者個人に禁煙指導を行うのみでなく、地域、社会、行政、マスメディア等に働きかけていくべきである。

 ちょっと古いが、2000年に日本医師会が報告した医師の喫煙率は、男性が27.1%、女性が6.8%で、一般男女の約半分であったが、先進国に比較すると、驚異的に高い数値である。日本医師会もたばこ対策に取り組んでおり、全国の医師会館の殆どは完全分煙となっている。次は医療機関内を禁煙化することによって医療機関従事者と患者の喫煙率をさらに減らしいく必要がある。医師がまず手本を示さなければ社会に禁煙を叫べない。
 我々は「たばこの害」を絶えず問題にしなければならないし、産業医、学校医の立場も利用してたばこ対策を進めるべきである。

 禁煙運動は随分長い歴史がある。健康教育を通じての自覚の喚起による禁煙指導には限界がある。青少年に対してたばこの害を熱っぽく説明しても健康や生命に関して関心の乏しいこれらの年代には効果が今ひとつである。今後は方法論を変えていくべき時期に来ているだろう。禁煙域の更なる拡大と、次の手は値上げに踏み込むべきである。

 2005年4月に日本医師会館で開催された国民医療推進協議会第2回総会で、活動方針として禁煙活動推進を決定したが、その中で「国民の健康を守る立場から、たばこ価格の大幅な引き上げと併せて、当該税収を国民の健康のための施策の財源に充てるよう」要望した。私はこの方針を聞いて耳を疑った。

 私は喫煙者を減らす意味での値上げには賛同する。

 しかし、医療費高騰の一因となっているとしても、値上げによる増収分を医療費の一部に転嫁しようとすることには反対である。弱いものいじめの発想で、国民皆保険の理念にそぐわない。多数の疾患を持ち医療費がかかる患者の保険料を上げ、生活習慣病の準備状態にある肥満患者の保険料を上げようとする発想に等しいと思うからである。
 こんなケチな発想は止めにしたい。増収分をどうするか? たばこ農家の転業、転作のための補助金にすればいい。

                  (2006/9/5)

 


全館禁煙から敷地内禁煙に(5)医療機関の責務として
 2003年に健康増進法が施行された。この法律は、健康づくりと健康増進を図ることを目的としている。これは、厚労省の「健康日本21」をバックアップする法律と言うことになるが、わが国ではこれまでおろそかにされて来た疾病の一次予防に関係者が目を向ける切っ掛けになると、期待された。

 この法は、喫煙、飲酒、食生活、睡眠、運動などに関し、国民には「健康の増進のための主体的な努力」を、国・地方公共団体、企業等には「その努力に対する支援」を、また各関係者には「連携及び協力」を担うべき責務として求めており、伸び続ける医療費の適正化に役立つものと期待された。
 注目すべきは25条において「受動喫煙の防止」が義務付けたことである。受動喫煙は「室内またはこれに準ずる環境において、他人のタバコの煙を吸わされること」と定義され、学校、病院、飲食店、商店や旅館、タクシーなど多数の人が利用する施設の管理者に防止策を取るよう求めている。
 この、受動喫煙を無くするという姿勢は特記すべき進歩であるが、25条は、罰則の無い努力義務で、いかにも日本的法律と言えよう。しかし、社会には受動喫煙防止策の実行が、喫煙者には「加害者意識をもって自己責任を果す」事が求められた点で価値は高い。後は、如何に実行に移すかだけである。

 しかし、5年目を迎えた「健康日本21」は、実感としてそれほど役に立っているとは考えにくい。肥満者はますます増え、若い女性の喫煙率も増加している。目標設定、行動指針だけでは何ともならない世界、それが生活習慣・生活行動の改善や変容である。これ以上は実行のある方策をとっていくしかない。

 平成18年度、厚労省は生活習慣病対策の推進に58億円を要求した。その夕ーゲットは30-40代の働き盛りの男性と、20代の女性に置いている。この年代の男女は、概して栄養バランスが偏り易く、運動不足で、喫煙率が高い。しかも、健康に対しての過信があり、行動変容に至らせる働きかけは困難である。健診と保健指導を強化し、健康教育を積極的に行うことが重要である事は論を待たないが、実行のある方策を併用していかなければ効果は乏しい。

 喫煙に対して当院は館内禁煙としてそれなりの実行を上げてきたが、次のステップとして2007年1月から敷地内禁煙にし、禁煙指導、禁煙教育を強化し、医療機関としての責務を果たすこととした。

                                              (2006/9/8)


 

全館禁煙から敷地内禁煙に(6)まもなく支援チームが発足
 喫煙は単なる嗜好等ととらえるべきではなくニコチン依存症と言う疾病である。個人的自覚や努力による離脱は困難で、70%は医療的な立場からの支援、治療が必要とされている。高校生に行ったアンケート調査で、友人に勧められて吸い始めたが、止めたくとも止められない、悩んでいる、との答えがかなりの頻度で認められる。

 喫煙は健康状態を悪化させる。あらゆる疾患の治療に際しても有害である。メリットは一切ない。その意味からも医師は最も強く喫煙を勧めることが出来る立場、勧めなければならない立場にあると言える。医療機関は禁煙を進める中心的な施設ということになる。

 当院は2004年4月から全館禁煙として一定の効果を上げてきたが、次のステップに踏み出すための機が熟したと言えよう。2007年1月から一歩進めて敷地内禁煙とする。敷地内禁煙と言うことは、単に禁煙の領域を建物から敷地内に広げると言うことではないし、喫煙者を閉め出すのではない。これを機会に、当院が禁煙推進医療機関であることを宣言し、従業員、出入りの業者は勿論のこと、外来患者、入院患者に対しても積極的に禁煙を勧めていくと言う、大きな変化を意味している。

 ここ数ヶ月、私は早朝5:15ころ、正面玄関脇で喫煙している患者やその家族にこの場で吸わないよう注意をしている。最近、この時間帯にそこで吸っている人を殆ど見かけなくなったが、恐らく他の場所に移っただけだろう。禁煙指導は単に呼びかけでは効果は不十分である。指導には専門的な知識と技術、熱意が必要である。さらに、そのサポートとしての敷地内禁煙である。したがって、敷地内禁煙実施の前に禁煙支援チームを設置して活動を開始する。

  その具体的なプロセスは、禁煙支援チームの計画案を待つことになるが、まず、●当院が禁煙推進医療機関であることを内外に宣言する。●職員に対し、禁煙の更なる啓発と指導を行い、病院敷地、病院周辺での喫煙を禁止する。場合によっては、ペナルティも考慮する。●周辺の駐車場他にも協力を要請する。●出入りの業者に対しても職員同様の協力要請、指導を行う。●外来患者への指導を強化する。●入院誓約書や入院案内にも明記し、入院患者には喫煙習慣の有無を必ず問い、当院が敷地内全面禁煙でありことを十分説明し、入院期間中の禁煙を確約させる。●禁煙が困難または無理との場合には禁煙支援チームが関与することの了承を得る。●敷地内禁煙に協力できないと明言する患者は、ほかの医療機関に紹介する。

 禁煙支援チームの人選も大体固まった。来週の管理会議の協議を経て実動される。
 当院の禁煙に対する姿勢が、社会の健康維持に役立つことを私は期待している。

                                                  (2006/9/11)


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