中通病院医報,33(2)1l〜2.1992
ポケットベル考
ポケットベルは実に便利な道具である。 しかし、先日(1992.7.2)の医局会での意見を聞くかぎり、ポケットベルに対する考え方は多様で、必ずしも重宝がられていない様である。大曲に短期赴任した2,3の医師も医局日誌に“大曲ではポケットベルから解放されて気が楽だ"と意見を述べている。
私にとってポケットベルは、自分への電話や自分がかける電話で他人の手を煩わせないために、電話の度に無用な緊張をしないために、自分の行動範囲を拡げるために、決して欠くことが出来ない道具であり私への連絡は、たとえ居場所がわかっていても院内・外ともポケットベルを優先 させ、応答がなかった場合と、23:00〜6:00の時間帯のみに電話を用いるようにお願いしている。 24時間通してポケットベルにしたいが、夜中に自分から電話するのも苦痛だからである。
私は外出や帰宅時にも院内ポケットベルをoff にせず、後にコールを確認する。院外用ポケットベルは、たとえコンサート会場でもoffにしない。
オートバイで走行中には胸のポケットに人れても首につるしてもコール音は全く聞こえないので、ヘルメット内に窪みを作って入れている(すでにステレオヘッドフォンも組み込んだ)。また、不測の電池切れは空白時間を作るので予備の電池を一本本体に1個付け、更に10円硬貨を2枚貼りつけている。
特定の人物を呼び出すのに関係ない人の手を煩わせるのは迷惑になるので、ポケットベルを使用できる範囲では電話で人を探すのは避けたい。病院内では医師の呼び出しにはすべて院内ポケットベルを用いるべきであり、失礼だからなどと言って遠慮する必要は全くない。
私は医局に一人で居るときには電話が鳴っても出ないが、私への用事の場合にはまもなくポケットベルが鳴りだすので 実害はない。 勤務表などから居場所が推定できても実際には 中座して不在のこともあるし、居たとしても当人が直接受話器を取ることはむしろ稀である。マンパワー不足の折、この様な無駄はなくしたい。勿論、手術、内視鏡などで、コールに応対できない時には受付などに預かるなど臨機応変に考えれば良い。決 してポケットベルをoffにはしないで欲しい。 ポケットベルがないと、受け持ち患者が苦しんでいるのではないか、どなたか先生の手を煩わしているのではないか、という不安が付きまとう。だから、電話が鳴る度に緊張して嫌な気分になる。実際には自分に関係ない電話も多いが、ベルの音では区別できないので電話が鳴ること自体が大きな精神的ストレスになる。業務連絡をすべてポケットベルにすると、自宅の電話がなっても業務外の電話だろうから何も慌てる必要がない。また、いつでも連絡がつくはずなので何処にでも自由に出かけられる。要するにポケットベルは私に大きな精神的安息、自由時間、行動範囲をもたらしてくれている。
最近NTTの携帯電話を数日間使用してみた。 しかし、決して安くない上、便利さが新たなストレスの原因になりそうで契約しなかった。先日、オートバイで走行中、前を走っていた高額車(高級車 ではない)が突然蛇行運転し始め、若干危険な思 いをしたが、何と、電話をかけながら運転してい た。ドライバーは別に危険とは考えていない様子 で平然としていたが、便利さが知らず知らずのう ちに人を蝕んでいく様で割り切れなさを感じた。確かに、院外ポケットベルが鳴っても公衆電話が 見つからず焦ることもあるが、電話を探す程度の時間は心の準備のためには丁度良い、と思って私は適当な便利さに満足している。
これは10年前に書いた文章なので、現在とは携帯電話の普及率が大幅に異なっている。さすがに私も携帯電話を持つようになったが今でもポケットベルは手放せずにいる
。現在の状況についてはこちらです。