その3
GRFmemory
先日近所に住む甥が尋ねてきてコンデンサー形スピーカーとは何か?という質問を受けた。なんでもこの甥はオーディオに興味があるらしく、現在タンノイの小型スピーカーを購入するかどうか迷っているという。
最近では時間が無くてオーディオのことなどすっかり忘れ、簡素なラジカセとか、ミニコンポでそれほど不満無くCDとかを聴いていたが、この甥との対話で昔自分がオーディオに熱くなっていた時期もあったことを懐かしく思い出した。その後時々仕事をしながらこのスピーカで音楽を聴くようにしている.
私の祖父はなかなかのハイカラ好きだったらしく、家にはいろいろの趣味の道具類があった.
大量のSPレコードがあり、蓄音機も数台あった.小学校の頃から竹を削って針の代用にしながらとか、蓄音機用の1.5cmほどの鉄の針をしょっちゅう取り替えながら童謡とか、時にヴァイオリンとか、チェロとかの小品を聴いていた.そのころは音楽自体よりは機械に興味があって弄っていたという方が正しい.
中学一年の時にTV(あの当時は当然白黒)でたまたま見たオイゲン・ヨッフム指揮アムステルダムコンセルトヘボウ管弦楽団の実況中継でベートーヴェンのエグモント序曲を聴き、最初の導入部の和音で鳥肌が立つと言う経験してから以降、いわゆるクラシック音楽の虜になった.
爾来現在に至るまでLPレコード、オーディオ装置、コンサート通い、楽器の購入・・・と音楽・オーディオ関連を一つの項目に纏めれば私が散在したお金は最も多いジャンルである.その遍歴については、別の機会に譲ることにしよう.
ここで「私の逸品、その3」として挙げたGRFメモリーはタンノイの創始者である、ガイ・R・ファウンテン氏の名を冠したモデルであり、イギリス屈指のスピーカーメーカータンノイの自信作であった。内臓スピーカーは一つで、口径は38cmで、形式は当時のタンノイ製品がすべてそうであるが、ウーファーとツイータが同軸に並んでいるタイプである.
GRFメモリーではクラシック音楽全般を心地よく聴くことが出来るが、特に弦楽器を生々しく再生すると言われている。SP時代の名録音、シュタルケルのコダーイのチェロソナタなどは松脂が飛び散る音が聞えてくるようであるし、デジタル録音のCDでもミッシャ・マイスキーのブラームスのチェロソナタのピチカートなどはあたかもこの場にマイスキーがいるようなリアルさである。フルニエの無伴奏チェロ組曲のLPもすごく良く鳴る.
オーディオ装置の能力の要は、他の信号を電気信号に置き換える部分、これはLPプレーヤー、CDプレーヤーに相当する音の入り口部分、と電気信号を他の信号に置き換える音の出口の部分、すなわちスピーカーの二カ所である.私にとってはアンプ類は質的に差があっても大同小異に近い.
音の入り口はLPプレーヤーとしてはピックアップはデンオンのMCカートリッジ一種のみを25年ほど一貫して使い続けている.最近、CD・LDの時代になって面白みが減ってしまった.
スピーカーは基本的には弦のふるえや、リードを介して音を発する楽器と同じと思う。同じ電気信号であってもコーンのふるえを介して音のエネルギーに変換されるとき、一つ一つに明らかな差が出るのは当然であり、特徴となる.日本製のスピーカーもサブとして若干使ったが、メイン機種として長く用いたのは輸入品で、1971年に購入したデンマーク製のダイナコ25XS、1980年頃購入した1965年製の英国のCelesion Ditton25、1991年頃に購入したGRFメモリーで、これらはカタログのスペックは必ずしも良くないが、すべてをとても気に入っている.ダイナコ25XSはツイーターが壊れたらしく現在は使用していないが、Ditton25、GRFメモリーは現役である.
GRFメモリーを購入する際、本当はもう一ランク上のタンノイ・ウェストミンスターを購入するかどうかまよったが、やはり個人所有としてはあまりに贅沢に過ぎるのでは?というバランス感覚に従ってしまった.
(2002/7/2)