その五
BOSE QuietComfort2
オーディオメーカーのBOSE社は常に新しい試みを製品に問うてくる面白い会社で業界の中でも異彩を放っていると思っている。家庭用のオーディオ製品を何度か試聴し、感心もしたが音響学的テクノロジーが全面に出過ぎていることから自分の好みには合わないだろうと考えて踏み切れず、今まで一つの製品も購入したことはなかった。
連休前に思い立って「クワイアットコンフォート2」と言う名のヘッドフォンをネット経由で購入した。これは「周囲の騒音を低減し、圧倒的な静けさ」を創造するノイズキャンセラー機能付きヘッドホンで、20年以上にも及ぶ研究のもとに開発された製品だという。ヘッドフォンに組み込まれたマイクロフォンが拾ったノイズと逆位相の音を作り出して耳の前で放射することによって、例えて言えば酸とアルカリを混ぜて中和する様な方法で、ノイズを中和する機構だという。
手に取り、電池を入れ、恐る恐る装着し、スイッチを入れてみた。何と、私にストレスを与える、嫌な騒音環境を、一瞬のうちに、静かな環境に置き換えてくれた。例えて言えば、プールとかで水中に潜った時のあの感覚、即ち、一瞬にプールサイドの騒音は軽減し、別世界に紛れ込んだ様な感覚に誘ってくれる。
いかに日常、ひどい騒音の中で暮らしているのかよく解る。
全くの無音状態になるわけではなく、ストレスのもととなる低周波ノイズを主にキャンセルし、人の話声等の帯域はキャンセルしていない。換気扇の音、コンピューターの作動音、町の騒音など持続的な音は特に効果的に低減するが、通常の会話は普通に出来るからすごく良く出来ていると感心する。突発的な音には効果は少ない。米軍の飛行場内の騒音下でも人間同志のコミュニケーションが取れる道具の開発がこの製品のルーツらしい。
ノイズキャンセラー機能だけならワイヤレスだから動くのも自由。机上でも気が散る原因となる雑音をカットし、集中力がアップする。入院患者は早朝の静かな時間帯に回診するのだが、ナースセンター内は空調や冷蔵庫等の騒音、心肺モニター装置等がうるさい場所である。せっかく朝の静かな時間なのに音ノイローゼの私にはとても耐え難かった。今はカルテ書きやオーダー簿チェック時にはこれを使っているが重宝している。
ノイズキャンセル機構に加えてヘッドフォンとしての能力も並以上である。着脱可能の外部入力端子がついているのでCD、MDとかの音源をつなげば、ノイズキャンセルによって作り出された静かな環境下で通常よりもずっと小さな音量で十分に音楽が楽しめるという、他のヘッドフォンでは絶対に得られない特徴がある。5月の山形出張では往復のJR車中でずっと利用していたが、騒音が減衰しいつもの疲労感からかなり開放されたし、より静かな環境の中で持参のMDの音楽を楽しめた。これは実感である。
このノイズキャンセルの理論はかねてから音響学の本を通じて知っていたが、暫くオーディオ関連から気持ちが離れていたので実際に市販されていたのに気付いたのはつい最近のこと。ヘッドフォンとしては決して安くはない(4万円)がBOSEなら信用出来ると、試聴もしないまま飛びついてしまった。届いたその日、最初に使ってみ多瞬間の感動は先に示したとおりである。
私は音ノイローゼである。常に騒音に悩まされ続けてきた。もしも、10年いや20年も前から使えていたら私の対人間関係、人生観、嫌音権主張、その他にもいろいろ良い影響を与えてくれていたのではないか・・と思った次第。ちょっと表現がオーバーかなとも思うが、ホントである。
今度は更に一歩進めてクワイアットコンフォートルームなんて出来ないかな、とさえ思っている。
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20030822/dev037.htm
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