週刊現代の記事に日本人間ドック学会が反論
週刊現代 7 月 17・24 日合併号に全国民必読として、
■「長生きしたければ病院 にいくな-余計な検査は受けないほうがいい、病気を作るだけだから」、
■「人間ドックが 「二次がん」を引き起こし、肺がん検診を受けると寿命が短くなる」、
■「日本の人間ドック は 50 年以上の歴史がある。この 20 年余りで受診者は約
250 万人も増加」、
という一見センセーショナルな見出しで人間ドックに関する記事が掲載された。
この記事内容に対して 日本人間ドック学会は「健康診断ことに人間ドックの意義について、国民に誤解を与える内容であると判断します。 人間ドックを介して国民の健康増進を目指す予防医学を担う医療団体である当学会は、掲載記事に対する見解を公表させていただくとともに、本学会の見解に対する貴誌のお考えをお示しいただきたく、ここにお願いいたします。(一部改変)」と発行元である講談社に抗議文を発表した。
私はドックを担当しているので業務ルートを通じて知ったが読んで双方のバカらしさを感じると共に原文を確認するために週刊誌のバックナンバーを取り寄せた。
記事はドックを受けたある種の著名人数人の個人的感想を紹介し、あたかもその意見がドックそのものの評価である如くに述べているところにある。その発言は見出しに挙げられたような内容である。
意見を述べている著名人は、学会の抗議文には実名が載っているがここでは肩書きのみにする。 ■ 拓殖大学学長W氏、 ■ 早稲田大学教授A氏 ■ 新潟大学医学部教授O氏、 ■ 天理よろず相談所病院元副院長B医師 ■ 帯津三敬病院名誉院長C医師、 ■ 諏訪中央病院名誉院長K医師、である。
記事はこの方々が寄稿したものではなく、談話を記者がまとめたものであろう。だから、実際にこの方々が記載内容の如くのニュアンスで記者に話したかさえも定かでない。私は意見を述べた方々が掲載記事を見て「本意でない」と思ったのではないか、と感じている。ただ、これは裏をとってみなければ分からないことである。
一方、学会の抗議文も情けない表現である。「・・・・当学会は、掲載記事に対する見解を公表させていただくとともに、本学会の見解に対する貴誌のお考えをお示しいただきたく、ここにお願いいたします。(一部改変)」などと慇懃無礼の表現である。「貴社の記事には事実誤認があり強く抗議する」で良いのではないかと思う。
はっきり言ってどっちもどっち的な印象を受けた。
(2010/07/28)
拓殖大学学長W氏「人間ドックで体調がおかしくなった」
拓殖大学学長W氏は「検査で体調がおかしくなった」と紙上で述べている。
恐らく、氏はドック検診において肺X線検査上異常陰影を指摘され精密検査を受けたものと思われる。肺がんが疑われたのであろう。その際、若干辛い気管支鏡検査まで受け、検査のストレスで一時体調が不調になったのかもしれない。
氏は「症状もないのに検査によって病気を探り出 すような愚かなことはやめようと決めた。やめれば穏やかな身体感に必ず目覚めます。」と述べている。こう考えるのは自由である。
これに対し学会は「これは、まさにインフォームドコンセン トの問題でW氏が検査の目的、内容、副作用等について理解が不十分であったことに問題がある」とし、氏の発言はドックそのものを“愚かなこと”と誹謗するもので納得できない」としている。妥当である。
肺がんが疑われた際には私ども関係者はご本人に検査の意義を十分に説明し、納得の上で精密検査を行い、治療に結びつける。ほぼすべての方は精密検査を受けられる。しかし、受けるか否かは自由である。検査が嫌なら精密検査を断ればいい。私が肺がんを疑われたときには直ちには検査を受けずに経過観察とした。氏は恐らく検査を受けてがんが否定されたからこんなことを言われたのであろうが、がんだったら今頃こんなことは言うまい。こんな批判的気持ちが続くうちはドックを受ける必要はありません。どうぞ勝手になさってください、が私の見解である。
学会は氏に対しあくまでも親切である。肩書きに負けたか。
「愛煙家で肺がんの高危険群ですので今後も定期的にドックを受けられることを勧めます。指摘の検査に伴うストレスについては本学会としても真摯に受け止めておりその対応の必要性は痛感しております。」と助言している。偉いものだ。私なら嫌がる方にここまではドックを勧めない。
早稲田大学A教授、 新潟大学医学部O教授への反論
早稲田大学A教授はドックで便潜血反応陽性でがんの存在が否定できないとのことで大腸の内視鏡検査を受け、それについて「何もないのにオレの腹はかきまわされたのか」と発言している。ドックで異常が疑われても精密検査を受ける気がないのであれば最初からドックを受ける必要はない。更に、精密検査を勧められたときに何故拒否しなかったのか?精密検査の説明に納得して検査を受け、異常がなかったわけでむしろ喜ぶべきなのにドック批判に回るのはおかしい。教授に大腸がんがあったらこう批判的なことは言えないだろう。
学会は以下の如くコメントしている
(一部改変)。便潜血反応は 大腸がん検診で、ドックでは陽性者の 0.4%に大腸がんが発見されます。大腸内視鏡検査の目的を十分に理解していないと考えます。
なお、病気のなかった受診者に対する対応については、本学会としても取り組む必要性があると考えます。この記事によってがん検診、人間ドックの受診者の減少が危惧されること、この記
事により国民の健康増進が損なわれることが危惧されます。
学会はあくまで低姿勢である。こんな記事で人間ドックの受診者の減少したり、国民の健康増進が損なわれることなどはない。教授は本当にこのように発言したのだろうか。
新潟大学医学部O教授は「肺がん検診を受けると寿命が短くなる」、「検診信仰、日本人だけ」、「目的もなく検査を行っても無意味」、「スウェーデンは、治療よりも生活習慣病などの予防医学に力を入れている」、「人間ドックの検査で特に問題視されるのは、レントゲン検査。食道や胃の場合被曝線量は通常のがん検診の 4~5 倍で毎年ドックを受けている人たちは二次がんになりやすく、そのことが人間ドックで見つかるがんの割合をさらに押し上げてしまう」 と発言している(一部改変)。
これに対して学会は以下の如くコメントしている
(一部改変、省略)。胸部 X線と喀痰細胞診は肺がん検診として位置付けられ、推奨されていますので、この記事は国民に誤解を招きます。また、人間ドックで発見されたがん症例の予後は良好です。「検診信仰、日本人だけが信じるウソ」について、この内容は学会としては容認できません。人間ドック受診者数約
300 万人は 40 ~75 歳人口 5,600 万人の6%でこの数値で「検診信仰」と断じることは出来ません。「目的もなく」についても本学会として容認できません。人間ドックは、わが国
の死因第 1位 のがんの早期発見、第 2 位、第 3 位の心疾患、 脳血管疾患の罹患率・死亡率の減少を、さらに、生活習慣病の発症予防指導を目的としています。人間ドックでがん発見率が高いのはその精度が高いためと考えています。
学会はここでも低姿勢である。どうでも良いようなコメントに実に真摯に対応している。「O教授のご意見は事実と異なる」の一言で十分である。私はO教授が本当にこのように述べたのか疑っている。取材した側、記述した側の問題でないかと思う。
(2010/07/31)