明和会医薬品便覧について思う

内科 福田光之

 赴任当初、明和会の研修カリキュラム、診療必携、医薬品便覧などの小冊子、中通病院医報、県連の総会決定集、各職場の一年の総括、方針集、時折配布されたDIニュース(最近見ることが無くなった)などを見て私は驚き、かつ感心した。この膨大なエネルギーは何処から沸いてくるのだろうか、私の理解の範囲を越えていた。しかし、これらの多くは日常的に殆ど役立っていないことを知り、今では利用よりも作成する方に目的があるのではないかと感じている。可及的早期に発想を転換しなければ無駄な努力をいつまでも続けるのではないか、とむしろ危倶の念を抱く。
 医報についての感想の一部は先に述べたので、医薬品便覧の第7版が配布されたのを機会に今回は医薬品便覧についての感想を述べる。
 この便覧が私にとって役立つのは、当院の採用薬か否かを調べる場合と、1錠中あるいは最小単位中の薬物含有量を調べる場合である。市販品の薬品集と異なり掲載薬物が少ないので調べるには重宝で外来、病棟では時折利用する。しかし、月日と共にDIに確認しなければならない薬品が増えるので不便になっていく。新薬採用採用取消しなどのニュース、DIニュースが便覧の一部として活用出来るようになっていないからである。
   使用経験の乏しい薬品を使用する時は投薬上の注意や副作用などを確認しないと処方出来ない。従って、薬品情報を得る資料には薬品の効能と共に、あるいはそれ以上に副作用や処方上の注意についての記述が求められる。その意味ではこの便覧は決定的に不備であり、自ら使用目的が限定される。そのため、個人的に私に配布された便覧の第5、第6版は机上では一度も利用されないまま、新版が出た日に捨てられた。恐らくほかの先生方に個人的に配布された便覧も似た様なものではないだろうか。一冊3,750円と言うが、労力と経費が無駄である。
 結論を急ぐが、私はこの便覧の存在を否定するものではない。ただ、市販品にはない特長を備えていなければ存在価値は低いと言いたいだけである。明和会で編集する以上、明和会ならではの内容が盛り込まれたオリジナルな便覧であって欲しいと思う。
 以下は薬局長や薬剤部に散発的に述べていた私の意見である。
・明和会で採用中の薬品を確認出来る

・他科でも頻回に診療するような普遍的疾患については当該診療科が推奨する標準的処方例が紹介されている(第7版に小児への処方例が入れられたことは評価したい)。
・明和合採用薬のうちの類似薬については個々の特長が解りやすく一覧表になって紹介されている。
 
・薬剤の適応性のみでなく使用上の注意事項の主だったものが記載されている
・保険診療上で必要な注意事項も盛り込まれている〔第7版に長期投薬に関する情報が人れられたことは大きく評価したい
 具体的に改善すべき点として、
・新薬採用、採用取消しなどの情報、D1ニュースは総て便覧と同サイズに統一し、適宜便覧に挟み込んで利用出来る様にする。その際、挟み込むべき場所や削除すべき薬品なども的確にガイドされる必要がある。
・新人オリエンテーションで各診療科が取り上げた項目のうち、薬物療法に関する部分を付録としてまとめる。
・採用されている抗生物質の抗菌作用の一覧表を付ける。そのほか例えばH2阻害剤・ニューキノロン剤など、作用の類似した複数の薬品が採用されているときは、その特長の一覧表などを付ける。これはDI活動の蓄積で徐々に出来上がっていくはずである。
・重要な割に情報が得難いのが 保険診療上の注意事項である。長期投与の可否、適応症などのほか、県の審査の傾向も入れるべきであろう。保健診療対策委員会は膨大な情報を持っているので利用すべきである。保健診療ニュースも便覧に狭みこんで利用できる様にすれば更によいだろう。

・便覧は各診療現場で用いられることが多いのだから現サイズにこだわることはない。B4版にして情報量を増やしたほうが良い。
 
 すぐには満足できるものが出来るとは患っていないが、一定の指向の基に日常的にデータを積み重ねて行けば作成は不可能でなく、改版の度に成熟していくだろう。
 最後にもう一つ別の提案もしておく。今のような便覧の改定は今回で止め、代りに"明和合採用薬一覧表"を頻回に出し、加えて旧本医薬品集"の新版を各職場に配布するのはどうだろうか。便覧作成の予算で毎年25冊ほどの日本医薬品集の新版を購入することが出来る。
 将来は診療現場の端末機で薬品に関する情報を自由に 引き出す様になると思うが、明和合医薬局便覧をより良いものにするため、是非前向きに検討して欲しいものである。    
                          
中通病院医報1991.7.31