中通病院関係 |
明和会全職員に対して行った喫煙に関するアンケート調査の結果と考察
第16回県連学術集談会実行委員長 福田光之
1はじめに
喫煙は喫煙者自身の健康を害するのみでなく、受動喫煙によって非喫煙者にも悪影響があることも知られ、最近では一部の人々の地道な運動で公共の場所などでの喫煙制限も徐々に広まりつつある。しかし、タバコは嗜好品として古くから親しまれ、喫煙も社会的に容認されて広く浸透して来たためか、受動喫煙の害がこれほど叫ばれていても喫煙者の行動にはまだ大きな変化としては表れていない。
医療関係者は喫煙の健康に及ほす影響については良く知っていながら、一般に、禁煙、嫌煙運動に対しては消極的である。喫煙が悪化因子として重要な意義を持つ愚者にさえも禁煙を強くは求めず、そのため患者も安易に考えて喫煙し続けている場合が多い。
我々は慢性疾患の診療などで、タバコに限らず疾病の悪化因子を排除するという重要な生活指導を軽視してはいないだろうか?反省してみる必要がある。
大曲中通病院では早くから禁煙運動が盛んであり1989年1月からは外来および病棟に設置した喫煙室を除き、全館禁煙となり、患者への禁煙教育も盛んであるなど、禁煙運動に関しては、わが国の医療機関の中でも最も先進的な取り組みを行っている病院の一つである。その一方では、同じ明和会の院所でも喫煙に対する考え方や姿勢には大きな違いが見られている。例えば、中通病院では外来患者は喫煙コーナーで、入院患者は病棟内の面会室でと一応場所の制限はあるものの喫煙は全く自由である。また、職員の喫煙は本人の自覚に任されて、殆ど制限されておらず、喫煙について公に討論されたこともない。
患者の立場にたつ医療を追及し、働く人々の生命と健康を守る運動を進めるという民医連綱領にてらしても、また、タバコの健康に及ぼす影響の大きさから見ても、喫煙問題は医療機関として避けて通るべきでないと考え、第16回秋田県民医連学術集談会のパネルディスカッションで喫煙問題を取り挙げた。パネルディスカッションを行うにあたり第16回県連学術集談会実行委員会では明和会職員の喫煙の実態や考え方を知る目的で全職員に対し喫煙に関するアンケート調査を行った。その結果、回答者数が800名にも及ぶ貴重なデータが得られたのでその結果を提示し、かつ簡単な分析を行ったのでそれについても報告する。
2.対象と方法、
明和会全職員(以後Nは職員数を表す。N=1012)を対象に業務ルートを通じアンケート用紙を配布、職種別と院所別に分けて集計した。職種別として歯科医師含む医師(N=78)、看護婦(N=519)、その他(N=415)の3群に分けたが、その他の群には、事務管理部職員、放射線や検査などの技術系職員、給食.薬局関係、歯科技工士、歯科衛生士などの多くの部門の職員が含まれる。
院所別としては、中通病院(以下中通と記す。N=597)、中通リハビリテーション病院(リハビリ。N=142)、大曲中通病院(大曲。N=140)、港北中通診療所(港北。N:7).中通歯科診療所(中通歯科。N=32)、大曲中通歯科診療所(大曲歯科。N=13)、中通高等看護学院(中通局者。N=11)、明和会本部(本部。N=70)に分けた。
一部の結果はχ2乗テストを用いて推計学的に検定した。
3.結果
A アンケートの回収率
アンケートの回収数は793部で回収率は78.4%であった。院所別に回収率をみると職員数が30名以上の5院所は総て回収率が75%以上であった。職員数が20名以内の3院所では回収出来なかったのは各々1-2名分に過ぎなかった。職種別に回収率をみると看護婦(N=519)は約88%、その他の群(N=415)は約73%であったが、医師(N=78)の回収率は43.6%と低くこの回収率は推計学的にも他の職種に比べ有意に低率(pくO.05)であった。 従って、医師のデータには他の群とは異なったバイアスがかかっているものとして別な解析をする必要があった。
B 喫煙率
調査時に現在タバコを吸っていると答えたのは全解答者(以後nは解答者数を表す。n=788)中237名で約30%の喫煙率であった。職種別ではその他の群(n=301)の喫煙率が約33%で、看護婦(n=453)の喫煙率は約29%であったが有意の差ではなかった。
医師では解答した医師(n=34)のうち8名が喫煙者であった。院所別では中通(n=449)、リハビリ(n=114)、大曲(n=115)、本部(n=54)で27-31%であったのに対し、中通歯科(n=30)での喫煙率が40%と高率であり.大曲歯科(n=12)でも5名が喫煙していた。また、大曲(n=115)での喫煙率は27%と他の院所に比べ低いとは言えなかった。
C 個人の成長環境における家族の喫煙状況
職員の成長過程において家庭内で喫煙者が居たか否かでは、解答した職員(n=774)の約80%は喫煙者がいた家庭で育った事が示された。職種別にみると、看護婦(n=439)、その他の群(n=301)では家庭内に喫煙者がいたのは約80%であるのに対し、解答した医師(n=34)のうち32名(94%)の家庭には喫煙者がいた事が示された。喫煙者の内訳では父親が約60%と他の近親者に比し有意に高率であり(p<O.01)、次いで叔父などの同居者が12%、同胞が5%、祖父が4%、祖母、母の順であり、この点では職種間で特に差は見られなかった。
D 調査時喫煙している職員(n=23了)に対する質問
@1日の喫煙本数
1日の喫煙本数は明和会全体(n=237)では1日!0本未満が44%.10本?20本が39%、20本未満が約83%であった。40本以上の本数喫煙する職員は2名と少数であった。職種別でみると看護婦(n=130)は10本未満が約60%、20本未満までの累積は約93%と大部分が1日20本未満であったが、その他の群(n=99)では10本未満が約27%、10-20本が43%で.20本以上喫煙する職員も約30%おり看護婦に比較して広い分布を示していた。院所別に見た1日の喫煙本数は中通(n=138)、リハビリ(n=30)では1日10本未満と、10-20本の間が共に40%程度であったが、大曲(n=31)では1日10本未満の喫煙者が約65%と職員の喫煙本数が他の院所に比し少ない傾向にあった。本部(n=15)では半数以上の8名が1日20本以上の喫煙本数であった。
A喫煙開始年齢
喫煙開始年齢を明和会全体(n=233)で見ると、20歳からの喫煙が32%、次いで18歳からの喫煙が約20%と2つの年齢にピークがあるが、23歳以降の喫煙開始も約18%あり、20歳未満で始めた人は33%に達していた。職種別にみると看護婦(n=129)の場合、20歳に33%とピークはあるが、その後も21-25歳の数年間に渡って喫煙開始年齢が約10%ずつ広く分布している。一方、その他群(n=97)では18-20歳の間に喫煙し始めた職員が70%を占め、それ以降の年齢での喫煙開始は少ない。
D禁煙努力について
禁煙の頻度。現在喫煙中の職員の禁煙努力の実態を知るために禁煙を試みた回数を調べた。明和会全体(n=253)では現在も喫煙している職員の約70%が何度かの禁煙を試みていたことが示された。職種別に見ると看護婦(n=144)、その他の職種(n=101)とも約70%が禁煙を試みており、職種間で特に差は見られなかった。院所別にみても大きな違いはないが大曲(n=34)では現喫煙者の約80%が何度かの禁煙経験者であり、他の院所よりは若干多い傾向にあった。
E禁煙回数.
現在喫煙中の職員の禁煙努力は、明和会全体(n=164)でみると禁煙回数3回までが約80%と大部分を占め、それ以上の回数の禁煙は大きく減少していた。しかし、5回以上も禁煙を行って喫煙を止める努力をしている職員が18%もあった。職種別に見ると看護婦(n=95)とその他の群(n=64)の間には禁煙回数には大きな差は認めなかったが、5回以上の禁煙は前者が20%、後者が15%と、看護婦の禁煙回数がやや多い傾向があった。
F自分自身の健康に対する喫煙の影響
喫煙が自分の健康に悪影響を与えているか否かについてと将来の禁煙予定について調べたところ、全体(n=234)の約95%が体に悪影響を感じているという結果を得た。また、いずれ喫煙を止めたいと答えた職員が37%と比率としては最も多かったが、一方、悪影響を感じていても止められない(24%)と止める積もりはない(32%)と答えた職員も高比率に見られた。院所別で見ると中通(n=136).リハビリ(n=29)では体に悪影響があるのでいずれ止めたいとの答えが選択項目の中では最も多かった(中通36%、リハビリ45%〕が、大曲(n=33)では止めたいと止める積もりがないとが同比率(約40%)であり、一方、本部(n=15)では全例が止めない、および止められないと解答していた。
G受動喫煙に関する考え方
最近注目されてきた受動喫煙に関する考えを調べたところ、全体(n=214)の約90%で受動喫煙の意義や害についてなにがしか意識しているとの結果が得られた。しかしながら、その半数以上(57%)はそれでも禁煙するつもりはないとしており、是非禁煙したいという意見(32%)より比率の上で多かった。院所別では.リハビリ(n=27)で67%、また本部(n=13)では10名が止めるつもりがないと答えている。一方、受動喫煙の害を認め是非禁唖したいとの意見は大曲(n=29)で38%と他の院所より若干高比率であった。
H患者の前での喫煙
患者の前で喫煙しているか否かについての設問では、明和会全体(n=237)では94%が患者の前で喫煙はしないと答えている。職種別では医師の解答者(n=8)の全員が患者の前では吸わないと答えている。看護婦(n=131)は97%、その他の群(n=98)は89%と、前者は後者に比し患者の前での喫煙を控えている傾向がみられた。患者の前でも喫煙すると答えた14名では、誰の前であろう吸うと答えたのは5名で.気にはしているが吸わずにいられないとの答えが8名であった。
I禁煙(分煙)運動とか嫌煙権に対ずる考え方、嫌煙運動に対する考え方や感じ方
明和会全体(n=245)で見ると、不愉快、あるいは関心がないと答えたのは7%ほどと少ない。一方、43%の職員は喫煙が健康に良くないことは判っているが、あまり騒がれることは嫌と答えている。しかしながら、約半数(51%)が非喫煙者からみると禁煙運動や嫌煙権の主張は当然であろうと考えている事が示された。
職種別では嫌煙運動、嫌煙権は当然との答えは看護婦(n=133)がその他の群(n=105)に比し多い傾向が見られた(54%vs44%)。
院所別にみると、中通(n=135)ではあまり騒がれるのが嫌との意見と、嫌煙権は当然との意見がほぼ同率(45.3%vs47、5%)であったが、リハビリ(n皿35)では後者の意見が多く(31.4%vs62.9%)、大曲(n=32)ではこの中間(31.3%vs46.9%)であった。しかし、大曲では喫煙に関しとやかく言われるのは不愉快との意見が9.4%と他の院所に比べて多かった(pくO.05)。
J、家庭、職場での喫煙における束縛間について
最近、家庭や職場で喫煙しずらくなって来たか否かについての質問では、明和会全体(n=247)では75%の職員が最近吸いにくくなってきたと感じている。この点を職種別に見ると看護婦(n=138)よりもその他の群(n=101)の方に喫煙しずらくなってきたと感じている職員が高比率であった(66.7%vs84.2%)。院所別ではリハビリ(n=35〕で吸いにくくなったとの意見は少なく(65,7%)、一方、大曲(n=35)で吸いにくくなったと感じているのが90%を越えていた。中通はその中間であった(70%)が、その他の院所でも吸いにくくなったと感じている職員が圧倒的に多かった。
K、喫煙の子供に対する影響についての考え
喫煙の子供に対する影響についての考えを質問した。明和会全体(n=235〕で見ると75%で子供の健康に対する影響を意識し、自分の喫煙が子供の将来の喫煙につながる可能性についての心配も加えると、解答者の約90%が子供に何らかの影響を与えると感じている。職種別では大きな特徴は見られないが、院所別にみると大曲の職員(n=31)は子供の健康に及ぼす影響(65%)より、子供の将来の喫煙に対する影響(26%)の方を他の院所の職員よりも相対的に強く意識しているという結果が示された。これに対し、中通歯科、本部では子供に対する影響については健康に対する心配が大部分を占めていた(中通歯科12/13.本部11/15)。
E 現在喫煙していない職員に対する設問
@喫煙経験について
現在喫煙していない職員に対し過去の喫煙経験について質問した。明和会全体(n=516)では、33%にあたる169人はかつては喫煙していたという。職種別では現在喫煙していない医師(n=27)の内約半数に当たる13名は過去に喫煙していたことがあったというが.現在喫煙していない看護婦(n=303)では34%が、その他の群(n=186)では29%が喫煙経験者であり、喫煙経験者はその他の群より看護婦にやや多かった。院所別にみると大曲の職員(n=78)に過去に喫煙していた人が43%と中通、リハビリ、本部に比し多かった。また中通歯科(n=15)では過去の喫煙者は3名と少なく、一方中通高看では現在喫煙していない8名中5名が過去に喫煙していたという。
A喫煙経験を持つ職員の禁煙後の期間と禁煙に要した禁煙回数
喫煙経験を持つ職員について禁煙後の期間と禁煙するまでに要した禁煙回数を質問した。明和会全体(n=139)では85%がまだ10年以内と禁煙後の期間は短い。94%が3回の禁煙で継続的禁煙に成功しているが、中には10回ほど努力して成功した人もいた。
B喫煙経験を持つ職員の禁煙の動機
喫煙経験を持つ職員に対し禁煙の動機を質問した。明和会全体(n=146)では64%が自分の健康に悪影響を感じたためであるといい、15%は妊娠を機に禁煙している。そのほかの選択項目は各々3-5%と少なかった。職種別では看護婦(n=89)は自分の健康(65%〕、妊娠(24%)が多かったが、その他の群(n=46)では妊娠による禁煙比率は少なく(4.3%)、自分や家族の健康(13%)、職場の雰囲気が吸いにくくなったから(8.7%)と答えている。院所別ではリハビリ(n=23)では妊娠を機にが多く(30.4%)、大曲(n=28)では自分の健康に対して悪影響のためが多かった(75%)。
F 喫煙経験が全くない職員への設問喫煙をしなかった理由について
喫煙経験なしの職員へ喫煙をしなかった理由について質問した。明和会全体(n=358)名では64%がタバコに興味がなかったとし、次いで自分の健康への悪影響のためが17%であった。職種別では自分の健康への配慮で喫煙していないが看護婦(n=189)で22,2%とその他の職種(n=158)の10,1%より多かった。
G 現在喫煙していない職員の受動喫煙に対する考え方について
現在喫煙していない職員に受動喫煙に対する考えを質問した。明和会全体(n=449)では受動喫煙についてかなり気にしているのが96%とかなり高率であった。しかし、実際にはそのような意見を持っていても65%の人は喫煙者に喫煙しないようには言えないとしている。一方では28%の職員は非喫煙者のいるところでは喫煙すべきでないと考えている。職種別では、回答した医師(n=25)の全例(が受動喫煙の悪影響について意識しており、その内の11名(44%)は非喫煙者の前での喫煙は止めるべきとの意見を持っていた。看護婦、その他の群.および院所別の検討ではさしたる特徴は出なかった。
H 全員に対する設問
@タバコの宣伝広告.自動販売機について
全員に対しタバコの宣伝広告.自動販売機についての考え方を質問した。明和会全体(n=752)では全く関心なしが19%であったが、タバコの宣伝広告、自動販売機について良いことであるとの意見は2.4%と少なかった。約80%の職員はタバコについて社会が寛大すぎる、タバコの宣伝広告、自動販売機などは公的に規制すべきとの意見を持っていた。職種別では看護婦(n=417).その他の群(n=303)間に差は見られなかったが、医師(n=32)では全例が、タバコや喫煙に関する現状の問題を感じており、その内の47%は宣伝広告.自動販売機などは公的に規制すべきとの意見を持っていた。院所間では大曲で社会がタバコに対して寛大すぎる、タバコの宣伝広告、自動販売などは公的に規制すべきとの意見が他の院所に比し多い傾向にあった。中通歯科(n=25)で関心なしが32%で、一方、広告や自動販売機は規制すべきとの意見も40%と両者とも院所間で最も高比率に認められた。
A医療人として喫煙に対して取るべき姿勢について
医療人として喫煙に対して取るべき姿勢について質問した。明和会全体(n=760)では、関心がない、積極的に係わるべきでないとの意見は8.6%で、健康管理上の問題とし関心を持つべきが58%、有害性を啓蒙し禁煙運動を進めるべきが16.1%.職場内分煙を進めるべきが11%見られた。職種別では、医師(n=33)では97%が健康管理上の問題とし関心を持つべき、有害性を啓蒙し禁煙運動を進めるべき、職場内分煙を進めるべきの項目を選択していた。特に職場内分硬を進める意見は27%と他の職種員より高比率であった。看護婦(n=430)は関心を持つべきが65%、啓蒙すべきが14%であったが職場内分煙は7%と少なかった。一方、その他の群(n=297)では職場内分煙が15%と高い比率であった。院所別では関心なしが中通歯科(n=27)で11%と高く、本部(n=53)では啓蒙運動すべきが32%、職場内分煙が19%と相対的には高比率であった。
4. 考察
第16回秋田県民医連学術集団会のパネルディスカッションにて医療現場と喫煙を取り上げるに当たって、まず、明和会職員の喫煙の実態や喫煙に対する考え方を知るために業務ルートを通じて喫煙に関するアンケート調査を行った。アンケート調査の回収率は78.4%と高かったが、この回収率は業務ルートを通じて配布や回収を行ったための人為的な高さであり、必ずしも職員の喫煙に対する意識の高さをそのまま反映しているとは言えない。しかし、明和会職員の喫煙に関する意識や喫煙の実態の一部を知ることは十分に可能である。
アンケート調査の回収率を職種別にみると.医局(医師)の回収率が43,6%と著しく低値であった。そのため、医師のアンケート結果は他の群の結果と同じ視点で見ることは出来なかった。また、病院内で見聞きする医師の喫煙実態と医師のアンケート調査結果の間に乖離を認めるが、これは、喫煙する医師の一部がアンケート調査に協力しなかったためと考えられる。喫煙している医師がアンケート調査に協力しなかった理由として、アンケート収集に関する業務機能が医局で十分働いていなかったことも一因と思われるが、それとは別に、最近の禁煙運動に対する漠然とした反感、大曲中通病院における禁煙運動が中通病院にも波及することに対する嫌悪感なども背景にあると考えられる。従って、この医師の低い回収率は、見方を変えれば積極的な意思表示の一つと考えることも可能であろう。
明和会職員の現在の喫煙率は約30%で.過去に喫煙していたが現在は喫煙していない職員が約20%あった。大曲の現在の喫煙率は27%であり、他の院所に比較してみても決して低くはなかった。しかしながら、大曲では喫煙者の中で禁煙を何度か試みた人の比率が79%と高かったこと、過去に喫煙していた職員の比率が院所間で最も高かったことなどをみると、大曲中通病院では禁煙運動の過程で喫煙率が他の院所と同じ程度にまで低下したことを示している。従って喫煙者の解答を解釈するに当たっては大曲の喫煙者の場合には、禁煙運動の流れの巾でなおも喫煙し続けている職員の意見であることを考慮する必要がある。
一般的に男で60%、女子で12%と言われている最近のわが国の喫煙率から見ると明和会全体でみると男子では平均以下、女子は平均以上の喫煙率と言いうる。女子の喫煙率が高かったのは看護婦の喫煙率の高さの反映である。院所別に喫煙率を見ると中通歯科、大曲歯科、港北での喫煙者の比率が多いが、その理由として、これらの院所では男子の職員が相対的に多くて性比が1に近いこと、前2者ではさらに職員の年齢層が全体に若いことによっていよう。一方、本部での喫煙率は27.3%と低率であったが、これは本部の男子職員の喫煙率が低いためであろう。
職員の育った家庭で喫煙者が居たか否かについてみたところ、約80%の職員の家庭に喫煙者がいたことになる。極めて高率の様に思われるが、わが国の成人男子の喫煙率は昭和30-40年頃には80%ほどてあったと考えられているので、まず平均的程度と言えるが、改めてこのころの高い喫煙率に驚かされる。それでも、解答した医師のうち90%の家庭に喫煙者がいたことは注目される。各人の1日当りの喫煙本数は明和会全体でみると約半数の職員が10本以内と少ないが、これは看護婦の喫煙本数の影響である。看護婦の場合は一般的に喫煙率は高いが喫煙本数は少ないようである。これは、看護婦の多くは職場でのみ、しかも休憩時間や準夜、深夜勤務の時のみ喫煙することが多いためと思われる。この看護婦の喫煙本数の少ない傾向は特に大曲に顕著であった。この理由としては、大曲の既婚者の看護婦の多くは夫の両親と同居しており、そのストレスも喫煙開始に幾分影響を与えていると考えられるが、それでいながら家では全く喫煙していない看護婦が多いという。そのため喫煙本数は必然的に少なくなるものと考えられる。
喫煙開始年齢をみると、20歳と18歳とにピークが見られるが、高校を卒業し社会に出た時、および成人になった時が喫煙にきっかけになっているのであろう。喫煙開始年齢を職種別に見ると、看護婦でも20歳に一応のピークはあるものの、その後数年に渡って喫煙を開始している。一方、その他の職種の女性も20歳で喫煙し始めている場合が多いが、それ以降に喫煙を開始している職員は比較的少なく、この点で看護婦と良い対比をなしている。看護婦の場合.他の職種員に比較して、業務上のストレス、勤務体系の不規則さ、女性ばかりの閉鎖的な職場環境で、先輩や友人の影響を受けやすいなどの特殊な環境のため、喫煙をし始めやすいと推測でき、そのため喫煙開始年齢が広く分布しているのであろう。
喫煙動機では当然積極的動機は見られず興味半分、友人の影響によってであったが、喫煙者の多くが後に涙ぐましい禁煙努力し、それでも禁煙しきれないでいる現実を見ると考えさせられるものがある。全く喫煙したことのない職員は喫煙に興味を感じなかったため、および健康への悪影響を意識したためという。喫煙年数を職種別に見ると、看護婦では10年未満が77%と短い。これは年齢的に多くが35歳未満と対象者自体が若いことによっている。他の職種では喫煙年数が長い傾向となっているが相対的に高年齢層が多いためである。
喫煙者の禁煙努力を禁煙回数によって推測してみると現在も喫煙している明和会職員253人の内の70%が過去に何度か喫煙を試みていた。院所別では大曲の職員に禁煙努力をした人が若干多い。現在も喫煙している職員の内で禁煙努力した人の多くは3回程度で禁煙することを諦めているようである。一方、過去に喫煙していたが現在は喫煙していない職員169人について禁煙に至った過程を見ると、多くは3回程度で喫煙を止められているが、大体この辺で成功不成功が大きく分かれるようである。禁煙努力の結果のみを論じることは簡単なことで、一般的には禁煙に成功したか否かのみが取り上げられ易いが、成功不成功の陰には喫煙者の性格、生活環境、経済状況などを始めとする数多くの因子が複雑に錯綜しているものと思われる。喫煙者はタバコが自分の健康に悪影響を及ぼしていることを自覚しつつも喫煙し続けており、約半数はそれでも止める積もりがないか、あるいは止められないのだという。大曲では現在の喫煙者(33例)の80%が禁煙するつもりはないと答えているが.これらの職員は長い禁煙運動の流れの中でも全く禁煙する積もりが無いか、または禁煙出来なかった職員の確固たる意志、又は居直りの気持ちの反映なのであろう。興味がもたれるところである。それにしても喫煙動機が気楽なものであるだけに非喫煙者の立場から見ると気の毒かつ悲惨な姿に思えてならない。
受動喫煙の害については喫煙者も大部分が意識しているが、それでも禁煙するつもりはないという意見が、いずれは禁煙したいという意見に勝っていた。しかし、分煙運動や嫌煙運動に関しては不愉快、または無関心と答えたのは解答者のうち僅かに7%前後と少なく、非喫煙者の立場から見るとこの様な運動は当然であろうと理解ある喫煙者も多かった。院所別で見ると大曲の喫煙者のうち禁煙運動に不愉快との意見が他の院所よりも多かったのが興味深いが、これは前述した如くの立場にいる職員の禁煙運動に対する率直な意見として捕えたい。
患者の前での喫煙に関しては、大部分の喫煙者は喫煙しないとしているが、現実には患者の前での喫煙を見聞きするので、恐らくは患者の前で吸っている人はアンケートに解答を寄せなかったのであろうと予測される。喫煙者の75%は最近家庭や職場で喫煙しずらくなってきたと感じているという。この点についての意見を職種別に見ると喫煙しずらくなってきたと感じているのは看護婦に少なく、その他の職種員に多かった。これは看護婦の喫煙は前述した如く夜勤帯とか休憩時間とかに限られている事が多く.同僚以外の他人のいる環境で喫煙することが少ないためと思われる。大曲では現在の喫煙者の90%以上が喫煙しずらくなってきたと感じていることは禁煙運動の効果として注目に値する。
非喫煙者の喫煙歴は約30%程度であった。職種別では、喫煙していない医師の半数以上が過去には喫煙していたといい、看護婦では約33%と他の職種員よりやや高率であった。女子の場合着くして喫煙を始めていても結婚や妊娠が禁煙する機会になっているためと推定される。院所別にみると、大曲で過去に喫煙していた職員の比率が高かったがこれは禁煙運動の成果であろう。禁煙の動機について院所別に見ると、大曲は自分の健康に対する配慮が勝っており、他の院所では妊娠などが主な理由になっている。大曲では妊娠などと関係なく、広く職員が禁煙運動の影響を受けて禁煙に至ったものと考えられる。
非喫煙職員の禁煙、分煙に対する考え方では、受動喫煙の害を気にしている職員は96%と高率であった。しかし、その内の約60%は喫煙者に喫煙を止めるようにはとても言いだせないとしており、この意見のなかに長い聞社会的に容認されてきた喫煙の社会的な問題点、思っていることをそのまま表現し難い我が国の人間関係、強いては我々の職場環境の問題点をも浮き彫りにされていると書えよう。一方、明和会全体の職員のうち80%は日本の社会がタバコに対し寛大すぎるとの意見を持っていた。
医療人として喫煙に対していかなる姿勢を取るべきかについての設問は、我々が喫煙に関するアンケート調査を行うに当たって最も重要と考えた設問事項である。結果として明和会全体の中で禁煙運動などに関心がない、あるいは積極的に拘わるべきでないとの意見は8.6%と極めて少なく、健康管理上の問題から関心を持つべきが約60%、タバコの有害性を啓蒙し禁煙運動を進めるべきが約16%、職場内分煙を進めるべきが約10%であり、医療機関の職員としてかなり満足できる程度の関心の高さが示ぎれたと言うべきであろう。特に、禁煙運動や職場内分煙をすべきという積極的意見が約1/4の職員に見られたことは重要である。職種別に見ると、医師は職場内分煙を望む意見が他の職種より多かった。一方看護婦は職場内分煙を望む声は少なかったが、前述のような理由の為と考えられた。院所別に見ると、本部職員に分煙すべきとの意見が医師に次いで多かったが、喫煙者と非喫煙者とが同じ部署でほぼ連日8時間同席しつつ仕事をしている環境のためと考えられる。
大曲中通病院の禁煙運動は長い時間をかけ数多くの討歳を壷ねた結果であり、全国の医療機関の中でも最も先進的な運動を展開している。しかし、同一法人内の他の院所では全くこの様な動きがないばかりか、大曲中通病院の禁煙運動に批判的な意見さえも見られているのは、同じ医療機関の姿として理解に苦しむ不思議な現象である。しかし、今回のアンケート調査の結果、大曲中通病院以外には院所として禁煙に関する組織的な動きはないものの、職員個人個人の喫煙にたいする意識は高く、医療機関の職員としての自覚を十分に持っていることが示された。大曲以外の明和会各院所も、患者および職員、さらに次の世代を担う子供達の健康を守るために喫煙に関し医療機関として何らかの行動に移るべき時期にいるものと考えられる。
5. おわりに
なお、結果の一部は第16回秋田県民医連学術集談会のパネルディスカッションにて発表した。稿を終るにあたってアンケート調査に御協力頂いた職員の皆様方に厚く感謝いたします。又、パネルディスカッションの遂行に深くかかわった実行委員の諸氏に心からお礼申し上げます。
第16同学術集談会実行委員会名簿
福田光之(実行委員長) 川村光夫(副実行委員長) 金沢哲夫(事務局長) 小林 仁(事務局次長) 吉村総一 鈴木ユリ子 鷲谷恵子 大竹 恒 山内史郎 相原栄子 荻原香代子 小川亮子 名取厚子 加賀谷悦子 佐藤敬子 大島卓哉 佐々木美穂子 辻 広子 須藤由美 保坂征勇 高橋秀樹
(中通病院医報30(1):10-27,1989)