序 研修医に望むこと、期待すること
研修医に望むこと、期待すること
本年度から卒後臨床研修必修化が発足した。当院は卒後臨床研修には長い歴史があるが、院内には従来に味わったことがないほどのフレッシュな意欲、息吹が感じられる。若い医師を迎える意義は大きい。
研修医と時間や対話の機会を共有することは私自身にとっても有用であるし、私みたいなのでも居ないよりはマシだろうと考え、救急カンファレンス、医局のカンファレンス等には出来るだけ参加している。
当院の研修医を通じて私が従来から感じて来たこと、最近感じたこと、私からのアドバイスなどを以下に記載してみる。
なお、「序」は当院の1992年版の研修パンフレットに記載した内容であるが、大きく変更すべき点はないので「序」の代用として再掲した。
思い出して欲しいこと
いい医者をめざすならば
皆さんは、いい医者になろうと大きな夢を抱いて医学部に進学したと思います。これから研修のことを考える前に、まず、そのことを思いだして戴きたいと思います。
みなさんが教育を受けてこられた医学部や付属病院は教育と研究の機能が優先しているという点で、第一線の医療機関とは明らかに異なっています。したがって、この中でのみ医師の教育を行っている現行のカリキュラムでは、「医学」の社会に対する応用である「医療」を学ぶという面から見ると不十分であり、学生は知らず知らずのうちに片寄りのある医療観を抱くようになっています。
大学の多くの医局は卒年時での人局を歓迎していますが、良き臨床医や専門医を育てるという意味からは一考される必要があります。大学や付属病院にも確かに臨床はありますが、それはあくまで特殊なものです。
いい医者をめざすならば、医学部での教育に加えて広く現実の医療に接して学ぶべきです。医療を担おうとするならば、第一線の医療機関での初期研修からスタートし、現実の体験に立脚した医療観や基礎的な臨床力を養い、将来自分の進むべき道を模索して欲しいものです。
医師の修練は生涯にわたって長い時間をかけて行うべきです。決して急ぐ必要はありません。
研修の場では
もう一つ大切なこと
私たち(医師)は、科学(医学〕の進歩を人々の生命や健康を守るために適応する任務を担っていますので、確かな医療技術を身に付けなければなりません。
医療技術とは専門的技術や知識のみでなく、患者や家族の苦痛や不安などの感情をも解し、適切に対応できる能力を含みます。患者の社会的立場、生活などを考慮に入れない医療はほとんど意味がありません。
医師は、常に謙虚さを失わず、一人一人の患者を大切にし、その中から人間を知る努力を怠らないようでなければならないのですが、これは医学知識の獲得よりも遥かに難しいことです。
日常の診療では
患者との信頼関係
患者と同じ人間が医療を行うのですから、いつも完壁とは限りません。医師は常に自らの能力向上を目指し、患者に対し常に誠意をもって診療することが必要です。患者は常に良い医師、良い医療を求めていますが、入院患者の主治医は病院の都合で決められるのが現実です。私達の医療行為は患者との信頼関係なしには行使出来ませんので、私たちの方から患者に不安を与えるようではいけません。
臨床医の経験、能力の差は親身な診療態度で補うことが出来ます。したがって、先輩医師と研修医の診療上の姿勢はおのずから異なっていてしかるべきですが、先輩の悪しき点までもしっかりと身につけた研修医もいて、ハラハラさせられることも希ではありません。
自信がついた頃
診療上の問題では先輩・同輩に声をかけることが大切です。それで懸案が一気に解決することもあります。総合病院では主治医の責任のもとにもとに集学的治療が追求されるべきですが、数年の臨床経験を積み、研修医が自分に自信をもち始めた時が、実は臨床医としての灘虚さか失われ易い最も危険な時期であるのです。往々にして、自分と先輩医師の能力にさほど差を感じない様になりますが、実際の臨床力には大差があることを肝に銘じておく必要があります。
臨床医学は奥が深く、絶え間なく研鑽しても目標の方で遠くに去るので、医師は生涯それなりに苦慮しつつ診療するものと思います。もし、臨床にさほど困難を感じなくなってきたとすれば、それは決して実力が備わってきたからではありません。
医師集団に対する責任
研修医は在職期間中、病院や医局に積極的に同化して欲しいと思います。
医師には患者に対する責任があると同時に、医師集団や医療機関に対する責任もあります。不満や意見は機会あ度毎に公的にきちんと明らかにして改善を要求して欲しいと思います。
社会医学的視点も忘れずに
病棟の医療のみでは社会医学的な意味での研修には不充分ですので、外来、出張診療、検診、診療所などの業務にも労をいとわずに参加すべきです。患者の生活環境に立ち入るといろいろなことに気づかされます。
以上、私の考えの一部を述べました。中通総合病院は述べてきた種々の点を考慮すると、充分期待できる研修施設だと思います。中通総合病院での初期研修を通じて、自らがどの分野で医師としての任を果たすべきかを見極め、大きく飛躍することを期待しています。そして機会あれば再びわれわれと共に働く機会を得て欲しいと思います。(1992/6記)
---明和会臨床研修案内1992/6より---
(2004年6月 一部加筆修正)
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