中通総合病院職員の皆様に 年頭のご挨拶と所信 |
2006/1/10 中通総合病院 院長 福田光之
1 はじめに
新年明けましておめでとうございます。
まず、新年を晴れやかな気持ちで迎えた喜びをお伝えいたします。
次ぎに、昨年一年間の皆様方の奮闘に感謝致したいと思います。特に私が院長を拝命してからの4ヶ月、大小様々、実にいろいろなことがありましたが、何とか乗り切れてきているのは全職員の皆様方の理解と協力のお陰と思っております。心から感謝申し上げます。
今年は社会全体にはどんな年になるのでしょうか?日本の景気は若干ながら上向いてきているとの評価があるようですが、秋田に住んでいる限りに於いてはまだ実感は出来ていません。
創立51年目という新しい門出となる新年の所感を、夢ある内容で開始したかったのですが、それは些か困難のようです。今年の医療界はかつて無いほど厳しい状況を迎えると考えられるからです。
しかし、厳しい情勢は何も特別に当院だけではありません。全医療機関に平等です。だから、私たちが今年をどんな年にする積もりなのか、どの様に変容していくことが出来るのか、が大きく問われる年だと思います。その様な視点で今年の困難を乗り切っていくよう、全職員のみなさん方と一緒に頑張っていきたいと考えます。
配付した資料は私のメモの一部です。院長が、あるいは長副会議でどんなことが考えられ、論じられているか見えない、との意見がありましたし、本日は時間の関係ですべてに触れられませんので、概要版を配布致しました。
2 医療情勢について
我が国の医療は、医療関係者の献身的とも言える働きを背景に、世界で冠たる成果を上げてきました。しかし、私は医療環境を良くし、医療関係者に余裕を与え、働く喜びをもっと感じられるようにしなければ医療そのものが根底から駄目になっていく、と思っています。
ここ10年間、医療界は安全性の向上、アメニティの改善、情報公開・患者サービスの向上、医療廃棄物の安全処理など多方面にわたって改革・改善が求められてきました。特に病院、とりわけ大規模病院への風当たりはとても強いものがありますが、医療界の改革・近代化自体は時代に伴う当然の流れであり、対応出来ない医療機関は社会から取り残されていきます。
一方、この間も診療報酬は極めて低く抑えられており、4年前には遂にマイナス改訂が行われました。医療機関の経営は余裕を失い、マンパワー、設備投資は最小限に抑えられ、青息吐息の状況で運営されております。
平成15年度の病院経営収支調査によれば、全国の自治体病院で黒字を計上したのは、僅かに106/1000施設しかなく、施設の売却先を探している自治体は10数カ所に及んでいます。勿論、自治体病院の運営自体に問題はないわけではありませんが、厳しい医療環境を示していることには変わりありません。
昨年9月11日の総選挙は郵政民営化の是非を争点に行われ、自由民主党が大勝しました。小泉首相は多数派を占めた余勢で、医療改革として来年度の診療報酬を3.16%引き下げると言う驚くべき裁断を下しました。これは改革という名目では理解出来得ない暴挙です。
3 問題を発信する医療機関として
私は医療は尊い職業であると思いますし、全職員で果たしている医療活動を通じて私どもの病院は社会的使命を充分に果たしていると思っております。この点は私どもは喜びと感じ、誇りに思って良いことです。しかし、私どもが如何に考えていようと、医療は社会情勢・経済情勢の影響をモロに受け、法の下に許された枠の中の業務しか許されておりません。それが現実なのです。
これは法治国家としては当然のことではありますが、医療レベルは医療の現場を全く理解していない政治家や経済界の要人が中心となり、我が国の医療のあるべき姿等は一切論じられることなく、米国主導の経済自由化路線に沿った経済効率第一主義で政治的に決められています。
経済効率のみを重視した医療費抑制策に対し、住民の健康をあずかる私どもはこれを黙認しているわけにはいきません。私どもの生活や健康を守るためにも絶えず医療現場から問題点を発信していかなければなりません。それには個人や医療機関単独では困難であり、一定の組織的対応が必要です。
当院は民医連加盟医療機関です。また、市医師会、県医師会の執行部にも長年役員を派遣しております。病院協会にも参加しております。私どもはこれらの組織を通じて自治体、国に対し、また医療関係者、住民や患者さん方に向けても正しい情報を発信していくべきと考えます。
私は時間的なやりくりはとても苦しい状況にありますが、許されることであれば、今年も県医師会の役員、日本医師会代議員、病院問題検討委員会委員として、医療現場の問題点を自治体や国、医療関係者、県民に発信していきたいと思っております。
4 基本的理念、中期計画の尊重と職員のコスト意識の高揚
この厳しい医療情勢の中、私どもにとってまず第一に重要なことは、医療機関としての経営基盤の確立です。経営を盤石にする目的は、組織の機能を維持し、われわれ従業員の生活を守り、働く意欲を維持すること、良い医療を継続的・発展的に展開し、社会的使命を果たするためであって、それ以外の目的は一切ありません。
医療機関として成り立っていくためには、住民に選ばれる医療機関であることが必要でです。そのためには安全で、優れた医療を提供することは勿論、患者さんへの対応、マナーが優れていること、それに尽きると考えます。幸い、われわれの医療活動は多くの患者さん方から支持されております。従って、病院の運営を地道に発展させていける下地は整っている、と確信します。
しかし、今、私どもはそれに安住しているわけにはいきません。今必要なのは、この環境を最大限に尊重しつつ、目的を明確にした医療の方向性の確認と実行です。すなわち、急性期病院として、一部慢性期医療の部門を遺しながら、全部門を挙げて急性期病院としての機能性を従来以上に高めていく必要があります。その方法論は資料に列挙致していますが、これだけではないはずです。私は少しでも実効性があると思われる方法は積極的に取り込んで行きたい、と考えております。
中でも重要なことは医師を初めとする全職員がコスト意識を持つことです。今年は昨年暮れに明らかになった部門別収支のデータも活用しながら学習を進め、一人一人が今何をなすべきか、を考えつつ業務について頂きたいと考えます。
この厳しい医療情勢に力強く対峙していくためには、自らが働く医療機関として、誇りの持てる医療理念を持っていること、です。われわれには50年に渡って先人が実践し、内外から高く評価されている理念があり、信頼を受けています。この信頼を更に伸ばしていく、それが私ども現職員の努めだと考えます。それには、働いている一人一人がこの病院は誰のものでもなく自分達の病院であるとの意識を持つこと、と考えます。そのためには現状把握のための学習、将来のための対話が重要です。私はそれに必要な情報は提示していきたいと考えております。
更に、将来構想も必要です。昨年春、策定された「中通総合病院・中期計画」には当院の進むべき指針の大要が明記されています。今年は将来の病院の新築をも視野に入れ、これを一つづつ実行に移す重要な年と考えています。
5 医療の安全対策、危機管理、苦情対策
安全な医療を提供すること、感染対策は医療機関であればもう当たり前のことです。
当院では医療事故防止、医療の安全確保、感染対策の面では専任のリスクマネージャー、ICNを配置し、各部門に医療安全推進者やリンクナースも配置し、マニュアルも整備しているなど、システムはそれなりに充足した状態にあります。
しかし、職員の一人一人の医療の安全に対する意識にはまだ問題がある様に感じられます。自らがその当事者になったときにまず第一に何をするべきか、どのようなルートで迅速に報告すべきなのか、など基本的な対応方法が十分に身に付いていないなど、教育・訓練面でまだ改善の余地があります。
また、徐々に増えつつはありますが、医師によるインシデント報告の少なさは問題と考えます。
医療事故あるいはこれに類した事象の報告を受けた際、院長の下に迅速に事故対策会議、事故調査委員会を立ち上げ、問題の拡大を防ぎます。そのためにも一刻も早い報告が必要です。その上で、第三者の意見として弁護士や県医師会の判断を仰ぐなど、その時点時点でベストと考えられる対応をして来ています。
医療事故は、狭い意味での医療行為のミス、過誤だけから生じているわけではありません。医療における満足度は決して医療行為、薬などから受けるのではなく、医療人の接遇から受けるものです。また、その満足度はかけ算で表現されるもので、倍々と増えて行きますが、途中にゼロが介在すると一瞬にして無に帰するものだと思います。患者さんや家族への対応の拙さが引き金となって、次々と事が重大になっていく、そのようなトラブルも広い意味で医療事故に含まれますし、最近増加傾向にあります。
時代柄、最近の患者さん方は医療のニーズのみから来院するのではなく、さらに願望(wants)を上乗せして受診致します。後者については医療上の観点からきちっとした説明が必要です。私は患者対応、接遇は医療医術の一つであり、医療人であれば誰でも学習し身につけるべきと考えております。
6 診療科の後継者対策、マンパワー対策
中通総合病院は需要のある部門は更に伸ばしていきたいと考えます。特に、救急部門に関連する内科的・外科的急性期の医療の分野はまだまだ伸ばせる分野と考えます。そのための課題の一つは医師・看護師等のマンパワー不足です。
その際、常に外からのスタッフ補充が話題になります。確かにそれも大事です。私どももスタッフの獲得のためにも尽力はしておりますが、諸事情で直ちには実現困難です。
緊急に着手すべきの課題の一つは、スタッフの労働力の偏在の解消です。それによって新たな部門へマンパワーの投入が可能になります。
医師に関して言えば、人生の終末期における呼吸器感染症を始めとする複雑な病態は、まとめて老年症候群と呼ばれますが、このような患者は現在内科系診療科に紹介され、結果的に総合内科系医師、特に熟年医師に多大な負荷となり、慢性的疲弊状態にあります。各医師が持つ専門領域の診療の技術を尊重しながらも、この様な患者の担当医、主治医の分配は診療部長の権限にしたいと考えております。
各診療科の将来構想、後継者対策、勤務医の過重労働などについても積極的に対応してまいります。また、今や、新人医師の3人に1人が女性という状況にあります。そのようななかで、結婚・出産・育児等の女性医師が抱える諸問題への対応はについても検討を進めます。
7 おわりに
大変長い話になりました。
実際には触れなかった分野にも問題は山積みしております。それらについてはまた機会を改めてお話し致したいと思います。
最後に、私は
-3.16%の診療報酬改訂は確かに大きな数値だと思います。しかし、痛みや困難は伴うにせよ、職員一丸となれば、それなりのレベルにソフトランディングさせられると確信します。
挨拶を終わるにあたって、私は院長に就任した際に表明した3つのキーワード、すなわち「挨拶」「笑顔」「ディスカッション」をもう一度ここで強調しておきたいと思います。この三つは人間関係の基本です。これを欠くことは困難の解決への糸口を欠くことでもあります。
院長室は私がいるときには扉が開いています。是非気楽に訪れて意見を述べて欲しいと思っております。
平成18年を希望に満ちた明るい年にするよう種々の提起と、院長としての考えを述べ、年頭のご挨拶とさせていただきました。
(本校は1月10日医局会用に準備した挨拶文ですので話題が医師に偏重しておりますが、申し上げたい内容は全職員に共通です。ご理解下さい)
1)実施時期が設定されている項目
●予算作成
●診療報酬改訂の当院のシミュレーションと対応
●業務改善・整理
●オーダリングの導入と機能拡大
●外来カルテA4化
●医療機能評価機構の認定
●中期計画の年次計画実践
2)医療内容の向上と増収対策
●コスト意識の高揚
部門別収支データの活用
●医療内容の向上
委員会、チームの機能向上と診療への反映
化学療法室の運用
●急性期病院としての機能向上
●外来
一定の患者数の確保、紹介率目標30%、予約制拡大
救急部門の機能向上(支援チームの改変・・ → 救急部新設)
サテライト化は困難
病診連携機能の向上
●病棟
病棟再編
アメニティ改善 6床室解消の方向
一定以上の病床利用率の確保、患者回転の促進
入退院閾値のセッティング
救急観察病床の設置と有効利用、
ICUベット有効利用、
在院日数対策
入院適応患者の見直し
トレード入院の運用と活用
入院時から開始する退院対策
長期入院患者等への退院あるいは療養病棟転棟勧奨
社会資源、特に法人内・関連法人施設との連携の改善
●中央診療部門への対応
ソフト・ハード面での検討
3)損失の防止
●医療の安全確保、医事紛争の防止
●返戻・査定対策
●院内感染防止対策
4)機構改変
●院長・副院長の病院管理時間の確保
●管理会議の機能向上 一人科長、技術部門からの参加
●診療部、診療科の見直しと部長、科長機能の向上
●看護部門の責任体制、指示系統の確立
5)マンパワー対策
●既卒医師確保対策 2月から病理医複数体制 その他芽が若干
●マンパワー偏在の検討と解消
●女性医師の労働環境の見直し、雇用対策
6)研修関連
●初期研修のさらなる充実と採用計画の検討
●いわゆる後期研修の充実 専門医取得、内地留学→当院のスタッフに
7)その他(決してその他にはあらずも、便宜上その他に)
●全国民医連、秋田市医師会、県医師会、県病院協会への参加と連携
●広報の拡充
●禁煙対策
●教育活動の充実
●後発品導入
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