病床区分について
中通総合病院は今後いかにあるべきか



中通総合病院では来年8月に迫ってきている病床区分の判断に向けての具体的な討議が始まった。どの選択をしようとしても厳しい選択が求められる。その討議に出席したある職員の方とメールで意見交換をした。内容は全職員に共通の話題なので、許しを得て一般論的に改変し提示する。



福田先生、早速のご返事ありがとうございました。ご了解いただきましたので、時々メールで意見交換させてもらいます。
(福田)是非どうぞ。自由なとらわれない意見をお願いいたします。私どもが欲しいのは全職員の意見、反応です。



今回の診療報酬改定に対する私の印象を述べます.間違いがあればご指摘ください.
(福田)意見をそのまま引用して私のコメントをつけていく方法をとります.ただ、十分推敲する余裕がありませんので舌足らずになる部分もあります。ご容赦ください。



2002年診療報酬改定をに対し、急性期入院は「ロッククラミングのクライマー」慢性期入院は「羊飼いに追われる羊」の様と例えた人がいるそうです。
急性期は平均在院日数短縮、手術症例数による施設基準、急性期入院加算への診療録管理の義務付けなどで、斜面の角度は年々険しくされる一方であり、慢性期は入院180日以上の特定療養費化などによって、医療保険から追われる羊のようです.的を得た意見だと感じました。
(福田)  同感です。厚労省からのアイデア、政府の方針は明らかに欧米諸国の医療制度からとってきているもので効率第一主義です.しかし、医療制度は特にこの国の長い歴史に基づいて行われてきているものであり、それが如何に効率的であっても諸外国の制度をそのまま導入して成り立つのもではありません.

 介護保険導入前までは医療が福祉や介護の分野まで担って来ていました.それが日本の医療・福祉政策がとってきた特徴の一つなのですが、その良さ、背景などを検証することなく、あまりにも拙速に諸外国の方法を取り入れ過ぎています.諸外国の模倣をするならば、諸外国の医療の良い点も取り入れてからにしてほしいものです。例えば病床数あたりの医師の数、看護師も同様.日本の数倍従事しています.だからいろいろな業務が可能になりますし、一方ではコスト面で問題を抱えることになります。

 日本の医療は、医療従事者の犠牲の上に成り立ってきました。今後はさらに締め付けが強化されることと、国民の犠牲がこれに加わっていきます。



いずれにしても、今回の改定は病床区分の最終選択と質の向上を求められていると思いますが、もはや小手先の対応では立ち行かないと考えます。
中通総合病院としてのあるべき姿を描きながら、厳しい生存競争に勝てる病院づくりをめざす。そういう時代になったと、腹を括るしかなさそうです。そして、そのための対応策として、療養病棟の並存を選択するにしても、地道に医療の質をあげていくというのが基本だろうと思います。
(福田)小手先の対応だけでは駄目でしょう。今までのあり方の利点、問題点を始めとして正しく評価し、今後の日本の医療のあり方の方向性をとらえて根本から考え直し、良い方向に行き方を変えなければなりません。

 そのためには、従来追い求めてきた医療を更に発展させて良い医療を展開することがまず先決です.その結果、必然的に余剰の病床が出来るのです.その余剰病床を返上することも視野の一つになります.

その余剰病床を返上せずに有効に利用するの方法の一つとして療養型病床群の導入を考慮する、と言うことです.

 病床区分の変更を取り入れるだけでは殆ど意味を持ちません.それだけでは当院の抱える問題点は何も改善しないのです.ここの部分が最も重要な視点です.療養型病床を取り入れると言うことは、当院にとっては良い医療の追求の結果の必然の姿なのです.



療養病棟の並存を選択することは医療の後退である、という考え方の職員もおりますが、それは当たらないと思います。
(福田)医療の後退との考えは私は100%ありません。良い医療追求の方向性を追い求めるからこそ、結果的に療養病棟の並存がクローズアップして来るのです.

 現状の病床数をかかえたままの中通総合病院のあり方では21世紀の医療情勢・政策に対応しきれなくなり、このまま手をこまねいていることで危機的状態を迎える可能性が高くなります。

 病床区分の導入は、新しい時代にふさわしい機能を病院に導入する事と同義である、と言う考え方です.危機というのは何処の病院にも平等に負荷になっています。当院ではそれが多少顕著に表面化しているにすぎません.危機と言うことはチャンスと言うことでもあります.私的病院のメリットを生かして変身していく機会でもあります。

 秋田市内の他の大病院も今のままの機能を維持しながら先々発展していくとは思われません.各病院ともいろいろな方法を模索していくことでしょう.



私はランクダウン策を取ることは、慎重にすべき、と考えます。一度ランクダウンしたものを、再度ランクアップすることは実際のところ不可能だと思うからです。
(福田)私自身はランクダウン策を取ることは全く考えていません。

 ランクダウンがあるとすれば病床区分の方向性が決まらない間に在院日数が伸びた事態を一時的にしのぐために用いるだけです。ランクダウンした場合、経済的には若干しのぎやすくなるでしょうが、現在の懸案を先々に持ち越すだけです.

 ランクダウンは念頭にありませんが、ダウンサイズは絶対的に必要です.先に述べたように療養型病棟導入は私の考えではダウンサイズの目的のためなのです.



経営戦略として、病棟区分を分けることや外来センター化などが具体的な手段としてあるのは異論がありませんが、それがすべてではないと思います。医療の質を上げることが基本だと考えます。

(福田)    当院には建物の構造上選択肢がそう多くありませんが、病棟区分を分けることや外来センター化を目的としてとらえることは経済効率の面からの小手先の対策であり、結果的には何も改善しません。

その前に何が出来るかと言うことが最も大事なことですし今求められていることの総てでもあります.それはダウンサイズを通じた、密度を上げた良質の医療の追求と提供でしょう.その結果、病棟区分の必要性が生まれてくるのです.



医療安全管理や褥瘡管理体制の減点制、手術要件の施設基準etcは、厚労省が打ち出してきた特徴的な誘導策と思われます.結果的に報酬アップを図ることが出来る一部の医療機関のみを、いわゆる勝ち組として残すと言う姿なのではないかと思うからです。
(福田)厚労相の望みは2極化でしょう.条件を満たしてのびれる医療機関とそうでない医療機関とのふるいわけです.

 大都会型の近代的機能を備えた医療機関のみが合致するような都市の論理に基づくプランは、それなりのバランスが出来て医療を安定的に供給している地方の医療を根本から乱すだけであって、絶対に容認できないものです.



2002年診療報酬改定は、厚労省が医療機関を「年功序列的な管理制度」から、人事考課導入による「目標管理制度」に替えて管理しようと企てているように見えます。
(福田)例を出して言えば手術要件の設定などは正しくその通りでしょう.しかし、これに関して言えば、地域医療の安定度や質の評価をせずに数の論理だけで判断している以上、容認出来ないものがあります.



基礎的シミュレーションの資料では、どの策を取っても経営上では厳しい状況にあることが示されています.従って、これに関する討論を契機として、管理・運営・人事・意識改革など、徹底して改革のメスを入れてい行くべき、と感じました。
(福田)思いは同じです.病床区分の導入は病院にとって救世主の如くに思われているフシがありますが、決してそんな良いことはありません。どの案を採っても厳しい結果です.しかも提示されたシミュレーション資料は最も条件の良い状況を設定して計算されています.

 実際に即した試算の場合、あれより遙かに厳しい内容になります.例えば、病床利用率は95%以上、療養型では98%として計算されていますし、日当点も最良の状態にある患者を対象にして計算されていますが、実際には到達困難な条件です.

 例えば、ダウンサイズを行わない状況での病床利用率95%以上確保は入院患者の閾値を下げなければならないのですが、急性期の入院患者が少なくなるために慢性期、亜慢性期の患者を入れざるを得ません。結果的に在院日数が延びるために到達不可能で、結果的にランクダウンが強いられるレベルです.

 療養型病床群での医療内容も問われます。中通病院的発想で医療を行ったらすぐに赤字になります。



地域医療の実践や医療の質を高めるためには、効果的なHIS(HospitalInformation System)化が管理・運営上必要と思われます。
(福田)その規範の一つとして、病院が評価を受けるか否かは別としても「病院医療評価機構」の500項目にも上る判断基準が参考になります.当院の現状に当てはめて見ても厳しいものがあります.その改善や検討過程を通じて全職員に問題点を分かっていただくことも必要です.

 今回の病床区分の討議を通じ、職員達は総じてかなりのショックを感じていると思います.



医療制度改革の特徴を押さえたうえで、明和会として何を目指すのか?そのコンセンサスが重要になってくると思っています。たとえば、これまで維持してきた1次から3次医療を継続するのか? 医師の確保はどうすれば達成できるのか? もしくは望めないのか? 民医連綱領とこれまでの患者層を大切にするのか?等々です.
(福田)    この前配付した資料の中には当院の問題点を列挙してありますが、その他には当院が確立し発展させてきた延ばすべき特徴も沢山あるわけです.スリム化だけでは駄目で何を残して伸ばしていくのかが問題になります.捨てるべきものもたくさんあります。例えば、一次医療の対象は病院周辺の住民中心に限定していく、当面の医師確保に大きな幻想を抱かない、・・・などなどを視野に入れた医療構想案が必要でしょう.




また、我々が実践してきた医療水準や医療感など、レベルダウンやおごりがないのか? あまりに診療部や医師個人に任されていないか? 医学生からみて魅力ある病院(診療部間の垣根のない医療、上も下もないチーム医療etc)に写っているのか? 法人として、そのための方針づくりと意思統一が重要なのではないかと考えます。
(福田)他の医療機関にいたとき、そこでは中通病院の医療はそれほど高く評価されていませんでしたが、実際に就職してみて職員の異様な熱気に驚いたと言う経験があります.私が受けた印象では自分たちの医療への評価はかなり自己満足的でした.

そうは言ってもかつて中通病院がなしえてきた医療は近隣の中では相対的には素晴らしいものがあったと思いますが、今や周辺の医療機関総てがその域に達してしまい、むしろ相対的に遅れを取り始めたと言うのが現況でしょう.ブランド的にも弱い、アメニティも・・.

新しく外から赴任してきている秋田大学の教授の方々の関心や興味も公的医療機関優先の傾向が伺われます。



当院は1-3次医療の実践や患者を区別しない医療を行ってきたので、市内の他の病院とは患者層が違い、急性期だけではやっていけないと思いますし、それが当院の特徴(民医連医療)でもあると思います。ですから、これからもそれを実践していくためには、一般病棟と療養病棟の並存が私も基本的に賛成です。ただ、患者数(動態)から見ると、療養病棟の数は、1フロア分あれば充分だと医事課長から伺っておりますが。
(福田)    私の論旨はまず何度も言っているように、療養型病棟が先にあるのではありません.在院日数の短縮に必然的に伴う病床利用率の低下、これは急性期患者を対象にして患者を集めようとしても殆ど回復不可能と思います.

だから、第一にはダウンサイジングとスリム化が必要です.患者層の狭い急性期中心でやっていける二次三次機能病院ではそれだけの操作でも良いと思います。ところが当院の従来行ってきた医療の特性上、患者層が実に広いのでダウンサイジングのみでは在院日数との戦いが永遠に続くことになります.それと、ダウンサイジングのみでは労働力の配分が不可能です.そのために同時に療養型導入が必要なのです.

療養病棟の数は、1フロア分あれば充分か否かは考え方の方向が私と異なります.私は秋田市における医療供給のレベル、今後の在院日数の締め付けを勘案すれば、当院の急性期病床は400床あれば出来ると思いますし、その範囲で出来る最大限のことをすれば良いと考えるので、2病棟を療養型に転換するほかに全館4床以下にしてアメニティを改善させれば良いと考えるからです.

多くの人達が考える1病棟のみを療養型に転換し、病床を減らさない方向は方向性として与えるショックは小さいのですが中途半端であり、在院日数と利用率維持で今後も悩むだけです.

療養型は1病棟では不足、2病棟転用でも運用は十分出来ると思います.一般病床を減らすことによって医師のマンパワー問題も解決していきます.

私の主張する病床減に対して多くの職員は大きな抵抗を示していますのでそのようにはならないでしょうが、私は敢えて主張は続けていきたいと思っております.医師数が増えれば・・・とか、あり得難い幻想の元で病床数を維持しようとしていますが、ダウンサイジングを伴わない転換は先の見えない泥沼に足を踏み入れることになるでしょう.



また、紹介率をあげるために外来を別にする案は、いろいろ解決しなければいけない課題も多いですが。(効果的人的配置、病院と外来センターの連携システム化、検査機器やデータの管理etc).もちろん、採算があう施策も大切ですが、会社として成長する原動力は社員のやる気・気概だと思います。それをどう引き出すのか? 幹部の姿勢と施策にかかってくるでしょう。
(福田)まず中通病院がどの方向に進むのか将来構想を先行させなければなりません.本音では外来分離は今の時点では同時進行させるにはあまりにもリスクが大きいと思います.第1に医師のマンパワーの問題です.第2に分離は新しい投資を要すること、第3に患者さんはあくまでも中通病院に通院したいのです.

企業体として社員のやる気・気概を失うことはすべてを失うことだと思います。それをどう引き出すのか?幹部の姿勢と施策にかかってくることも十分に自覚しています。



明和会・病院の会議で決定されたとされるITシステム化施策は 先見性を持って、大胆に、そして細心に、今から取り組まないと遅いくらいです。いつまでマンパワーだけに頼るのでしょうか?看護師はそういう事務作業があまりに多い。
 院内にLAN配線を敷くだけなら、電子カルテ化のための総予算からみると微々たる予算で済むのです。電気や水道がないと LifeLineが切れると同じに、データが流れるLANがないと何もはじまりません。だからと言って一度に高額な予算をさいてシステム化する必要もないのです。必要なものから、実践していけばいいと思っています。空床管理やインシデント・アクシデント管理、じょくそう管理、検査データリアルタイム参照など、最初は目的が達成できればという発想で、プロトタイプシステムを導入し、そういう実践を通じて職員はパソコンに慣れ、システムを知り、将来どういうシステムにすればいいのか?イメージが湧いてくると思っています。。
(福田)    私自身は院内LANを敷き出来ることから機能化していく立場で考え発言していますが、電子化を担っている方々とは折り合いません.上に挙げられた利用目的の他、通達伝言をリアルタイムで流す、マニュアル等の蓄積検索、随時参照などいくらでも有用な使い道があるわけです.

                


                2002/10/14